矢形の水広間

「お年寄りも、子供も、一緒になってくつろげる水辺の空間が、集落にあればいいなあ。」

<地球の家>の構想が生まれる発端はこの一言にあった。差別なく、隔てなく、集い、くつろげる。長年水と人が出会う<水場所>を追い求めてきた者の確信がある。

単に、水と戯れ、遊ぶ場所では、水を人間の都合で利用するだけではないか。共に向かいたい方向や夢があって、始めて人は心開いて集うことが出来る。

先端が矢形になっているのはその強い意志の現われである。三段になって連なる段丘の一番上の道に上がって、全長約50メートルの<矢形の水広間>を見下ろす。先端が矢印になっている、その先が東シナ海に向いていることが一目瞭然でわかる。そして、矢形は舟の舳先で水広間は東シナ海への航海に向けて停泊中の大きな舟に見えてくる。この水広間を訪れる人は全て乗組員(クルー)のようなものだ。いろんな参加の仕方がここにはある。
<80リットルの水箱 と マイ・オール>水広間の真中をまっすぐに貫いて白い道が延びる。鹿児島ならではの火山土壌であるシラスを敷きつめた上に<80リットルの水箱>が数十個列をなす。80リットルとは、一人が一日暮らすのに必要な水の量の目安である。それらの水箱には、水を汲み、運ぶ手の写真がプリントされている。木口屋住民の手、地球の家の製作に携わった人たちの手、それに地球の家の訪問者の手もある。「未来に大事な水を届けよう」という、ひとり一人のメッセージを見てとることが出来るだろう。
水が流れ溜まる場所には竹が敷きつめられていて、その上で足を休めるのもいい。<水のじゅうたん>と呼ばれる由縁である。その水の流れの真中あたりに、カラフルに色塗りされた竹製のオールがギッシリと並ぶ。いざという時に舟を漕ぐためのオールでそれぞれに自分のオールを作り持つことから「マイ・オール」と親しみを込めて呼ぶ。地球の家では、原則全ての人を住民として受入れるので、自分だけの「マイ・オール」を持つことが出来る。みんなでつくろう、地球の家だ。

<緑柱>
水広間をはさむようにしてもうそう竹を束ねて作った円柱が建つ。高さ4.5メートルのてっぺんには草が生い茂り、時間が経つと地面からの草も円柱に絡み緑の濃い円柱となることから<緑柱>と呼ばれる。ある種の大広間のイメージを感じさせるのも、これら<緑柱>が列柱のように並び立つからであろう。

2年目になると矢形の部分は舟の舳先のように改造され、水広間全体が巨大な舟として立ち上がってくるだろう。その時80リットルの水箱やマイ・オールは未来に向かうための積み荷として重宝されるに違いない。緑柱が舟の側板のイメージを補強し、舟の舳先も緑で覆われる時、「未来のための緑の舟 Future Green  Vessel」は、その雄姿を垣間見せる。

時間の変化と共にある「生長するアート」として、<地球の家>から世界に発信する時が到来するだろう。

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