2017年地理B本試験[第2問問3]解説

問3[ファーストインプレッション]バイオマスに関する問題。21世紀のトレンドとも言えるね。感覚的に解ける問題とも思うが、文章正誤問題にはテクニックが必要なので、しっかり思考して解いてみよう。

 

[解法]バイオマスエネルギーとは生物エネルギーのこと。動物性バイオマスと植物性バイオマスがある。動物性バイオマスの例としては家畜の排泄物があり、植物性バイオマスとしては樹木(薪炭材)、サトウキビ、トウモロコシ、大豆、アブラヤシ、ヒマワリなど。

注目すべきは植物性バイオマスであり、それらは燃焼の際にはもちろん二酸化炭素を生じるわけだが、植物自身が成長する際には光合成によって二酸化炭素を吸収し酸素を排出する。二酸化炭素のプラスとマイナスが相殺され、化石燃料に比べ二酸化炭素の排出量が少ない計算となる。この二酸化炭素を中和する作用のことを「カーボンニュートラル」といい、植物性バイオマスが環境負荷の小さいエネルギーである最大の理由なっている。④は正文。

先にバイオマスには薪炭材としての樹木も含まれると述べたが、例えばインドは世界最大の森林伐採国であり、その利用目的は「薪炭材」に偏る。先進国が建築材料やパルプ原料としての「用材」としての利用が主であることと対照的である。木材の利用は「先進国=用材、発展途上国=薪炭材」である。エネルギー消費(供給)の様子を見ると、インドは比較的「再生可能エネルギー」の利用が多い国であるが、これはもちろん木材を薪炭材として、料理や暖房などの燃料として用いているからである。インドの薪炭材を考えれば、バイオマス利用は決して先進国だけものではなく、むしろ発展途上国ほど自然エネルギーを利用する機会は多いのではないかと考える。③が誤りである。そういえば、先日観た映画で、アフリカの貧しい村で風力発電を成功させるというドキュメンタリーがあったが、簡素な道具で電気が得られることには驚かされた。「大規模な発電施設の開発」も当然不要である。

バイオマス発電で一つ懸念されることは、穀物などバイオマスの原料となる農作物の需要が拡大し、価格が高騰することである。大豆やトウモロコシなど本来飼料として利用されるものが燃料用となることで、市場での価値が上がり、値段が上がる。常に市場では需要と供給のバランスよって価格が決定されるのであり、これはむしろ資本主義社会の必然ではあるのだが、長期的な価格の安定など今後取り組むべき課題となるだろう。②は正文。

バイオマス利用は世界各地で進められており、国によって特色がある。先に例として挙げたインドの薪炭材のように、発展途上国では森林資源が重要なバイオマスとなる。

他の例を挙げておこう。

・アメリカ合衆国・・・世界最大のバイオマス利用国。大豆やトウモロコシ。

・ブラジル・・・サトウキビから抽出したアルコール燃料はガソリンの代替品である。

・デンマーク・ドイツ・・・豚の排泄物を発電用の燃料として利用。いずれも、水力発電(国土が平坦)、地熱発電(火山がない)、太陽光発電(緯度が高く、太陽からの受熱量が小さい)には不利な国であるが、風力発電(平坦な国土で偏西風の影響が強い)、バイオマス発電(混合農業の国で豚の飼育頭数が多い)には適している。

・フィンランド・・・木くずの利用。樹木をそのまま燃やしたり、あるいはアルコール燃料を抽出している。フィンランドでは森林保護のために硫黄酸化物を排出する化石燃料の使用は避けられている。木材による火力発電。①も正文。

 

[難易度]「バイオマス=薪炭材」が思い浮かべば簡単なんだが。★★

 

[参考問題]2012年地理B本試験第5問問5[29]。選択肢①がフィンランド。人口が少なく経済規模も小さい小国であり、全体のエネルギー消費量が小さいため、相対的に「一次エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合」が高くなっているね。フィンランドは火力発電が盛んなのだが、これは石炭や石油ではなく(これらは酸性雨の原因となる)、木くずを用いて発電している。バイオマス先進国の一つ。