共通テスト地理B[2021年第1日程]第4問解説


第4問(アメリカ合衆国)


[20][インプレッション]問1(1)みたいな形になっていますね。形式的に新しい。ただ、問題内容としてはオーソドックスというか簡単。むしろセンター・共通テストっぽくない。たまにはこういう問題もあっていいのかな。


[解法]アメリカ合衆国は「北東から南西へ」のベクトルを持つ国。イノ矢印が正解。ニューイングランド地方を中心とした北東部が「古いアメリカ」であり、カリフォルニア州を中心とした南西部が「新しいアメリカ」。人口も産業もこちらの方向に移動



[21][インプレッション]問1(2)ですね。(1)の内容を受けて、という形にはなっているけれど、とくに意識するものでもないかな。


[解法]選択肢3が圧倒的におもしろい。なるほど、たしかにカリフォルニア州の開拓には大陸横断鉄道の開通が大きなきっかけとなっている。でも、さすがにこれは時代が違うね。もっと古い。

1950年は太平洋戦争が終わっている時期であり、2010年はもちろん現在。これは1が正解でしょ。北東部に比べればサンベルト(北緯37度より南側の地域)や太平洋岸は労働力も安く、土地も広い。資源も豊富だね。



[22][インプレッション]「水」をテーマとした問題は決して珍しくはないけれど、アメリカの州がテーマとされていることには驚いた。おおまかに降水量や蒸発量(つまり湿潤か乾燥かということ)を考えれば解けるんじゃないかな。


[解法]では問題をみていこう。カ〜クの違いをみるに、数値に大きな違いがあるのがわかる。カは農業用水の割合が極めて高く、これはポイントになりそう。生活用水の割合が極端に低いのがおもしろい。人口密度が低い地域なのだろうか。キは工業用水と生活用水の割合がともに高く、農業用水が少ない。農業がさかんな地域ではなさそうだ。クは工業用水の割合が高めになっているが、全体としては極端な数字はない。これは消去法で考えればいいかな。


地下水と地表水についてはどうなんだろう?地表水とは主に河川のことだろうから、これを降水量と結びつけるのが最善手のような気がする。地下水はどうかな。これについもて、結局降水量が多い地域は地下水も豊富なはずなんだが。


3つの州のうち、一つだけ仲間はずれの州があるとすれば、それはマサチューセッツ州だろう。北東部は大陸氷河に覆われていた歴史があり、地力に乏しい。氷河の侵食によって地表面の肥沃度が削り取られてしまっているのだ。農業がさかんな地域ではない。農業用水の割合が低いキがこれに該当。また北東部の大西洋岸には大都市が並び(メガロポリス)、人口規模も大きい。生活用水の割合が高いことにも納得。


そうなると、生活用水を人口と対応させることはやっぱり手がかりとなると思う。テキサス州はヒューストンなどの大都市もあり、人口は多い。人口が少ない州といえば、3つの中ではネブラスカ州だろう。農業地域のど真ん中で穀物栽培などさかんとは思うが、大きな都市があるわけではなく、人口は少ないと思われる。生活用水の割合が極めて低いカがネブラスカ州。


残ったクがテキサス州。農業もさかんだが、人口も多く、さらに石油化学を中心とした工業も発達。まんべんなく用水が必要とされている。正解は5。


水源別の割合は考慮しなくていいと思う。これ、おそらくオガララ帯水層がネタになっているんだと思う。ネブラスカ州を中心としたグレートプレーンズには地下に巨大な帯水層があり、地下水が農業などに利用されている。ただ、これについてはさすがにマイナーな話題であるし、過去に出題例もない。オガララ層を手がかりにネブラスカ州を特定するのはちょっと無理があったと思うな。



[23][インプレッション]海洋性気候と大陸性気候がわかれば何となくできたんじゃないかなって気がするな。気候グラフと農産物を対応させる問題って、今まで「ありそうでなかった」パターン。問題として作りやすいと思うので、今後はこの手の問題が増えてきそう(僕も模試で使おうかな)、


[解法]ワシントン州のXはシアトルかな。太平洋に近く、海洋性の気候がみられる。気温年較差の小さい穏やかな気候。気候グラフはサに該当。


一方、ミシガン州のYは大陸内部。湖には近いけれど、それは大きな影響にはならない。大陸性の気候がみられ、気温年較差は大きい。気候グラフはシに該当。


とくに夏と冬の気温に注目してみよう。夏は大陸性気候のY=シが高温となり、海洋性気候のX=サは冷涼。そもそもシアトルは緯度が高く(北緯50度に近い。北海道よりはるかに北)、夏の気温は低く、20度に達しない。一方で、冬は温暖で最寒月でも5度程度。これ、東京(北緯35度)と変わらない。いかに気温が高いかがよくわかる。Y=シについては最寒月がマイナス5度。寒冷であり、凍結する(北米五大湖も冬は氷に閉ざされる)。


農産物に注目。ここで最重要は「テンサイ」。これ、実は最近になって急にテストによく出るようになった作物。別名を「さとう大根」あるいは「ビート」とも呼び、その名の通り、砂糖の原料になるばかりではなく、家畜の飼料にも利用される。ロシアやフランスが主生産国であり、日本では北海道。冷涼な地域に適応する農産物である。このことから、冬季とくに気温が下がるY=シでこそテンサイの栽培がさかんと考える。シがHであり、残ったサがGである。小麦もやや冷涼な気候で栽培できるものだが、テンサイほど寒冷地域に適応するわけではない。


テンサイは非常に重要な作物なので、統計を確認しておこう。



[24][インプレッション]州の中の都市に関する問題ということでちょっと細かいね。ただシアトルやデトロイトといったメジャーな都市が問われているので、まだ何とかなるんじゃないかな。


[解法]ミシガン州とデトロイト、ワシントン州とシアトル。それぞれの人種民族が問われている。どうなんだろう?難しいのかな。「全体」と「人口最大都市」を比較するパターンはさっきもあったな。ケニアやオーストラリアが問われていた問題。個人的な感覚でいえば、共通テストって形式的に似たパターンが多い。出題形式を工夫したつもりで、逆にそのバリエーションの幅が狭まっている印象。これ、将来的には変わってくるのか、それとも固定化されるのか。もし後者だとすれば、模試もこの形式を使えばいいだけなので、作成が簡単になるんだけどね。


ではグラフを読み取る。人種は「ヨーロッパ系」、「アフリカ系」、「ヒスパニック」、「アジア系」。ヨーロッパ系が多いのはアメリカ合衆国としては当たり前のことなので、逆に3でヨーロッパ系が少ないことが気になる。ただ、わかりやすいのは「アジア系」だと思うよ。太平洋岸のワシントン州やシアトルは、アジア系の割合が高いはず。近年、中国からの移住者はかなり増えているからね。そういえば、インド系住民の問題もさっきあったね。もちろんインド系もアジア系なわけだが。シリコンバレーにはインド系の技術者が多い。太平洋岸にはインドからの移住者も多そうだね。


このことから、アジア系の割合が高い2と4がワシントン州とシアトルのいずれかになるだろう。ではどちらが州全体で、どちらが特定の都市なのか。ここもやっぱりアジア系をみたらいいと思うよ。中国からの移民が目指すのは当然大都市だろう。アメリカ合衆国の都市の多くにはチャイナタウン(中国人街)があり、同胞たちを迎え入れている。商店経営や金融業に携わる中国系住民も多く、移民たちはまずそこで仕事を探すだろう。アジア系の割合が高い4がシアトルと考え、一方の2がワシントン州全体である。


このことからタがミシガン州であり、Jが州全体。1が正解となる。


なお、このグラフはおもしろいので他にもポイントを探ってみよう。


まず注目するべきはデトロイト市の人口構成。20世紀前半に自動車工場で栄えたデトロイトには労働者が多く流入し、そのほとんどは南部(南東部)の綿花地帯から移動してきたアフリカ系の人々である。奴隷解放によって自由を得たアフリカ系の人々であるが、依然として経済的にはめぐまれない。当時、興ってきた自動車工業の労働力として北部の都市へと彼らは移住したのだ。みんなもよく知っているミュージシャンのマイケル・ジャクソンも実はこのデトロイト近郊の出身。アフリカ系だからといって南部出身というわけではないんだね。マイケル・ジャクソン以外にも。スティービー・ワンダーやダイアナ・ロスなどデトロイト出身のアフリカ系ミュージシャンは多い。デトロイトは「自動車の街」であると同時に「黒人音楽の街」でもあるのだ。


さらに興味深いのはヒスパニック。アジア系と同様に移民なので、ヒスパニックは当然都市部に多いのだが、意外にそうでもないよね。ワシントン州においては大都市シアトルにおける割合より州全体に占める割合の方がヒスパニックは高い。実はヒスパニックのうち、一定数は「農業」に従事しているのだ。農業に従事というか、農業労働者という感じだろうか。アメリカ合衆国の農業は企業化されており、そもそも労働力に依存しないのだが、だからといて全く人手が要らないわけじゃないよね。少ない農業労働力として、移民であるヒスパニックの人々が重用され、農業地域にヒスパニック人口が多いという現象がみられるのだ。



[25][インプレッション]また移民に関する問題。あれ?こういうネタかぶりがやたら多いような気がするんだが?問題を作っている側もかなり苦労しているのかな。苦し紛れってことでもないんだろうけれど。


[解法]階級区分図の判定。まずは階級区分図の基本として、それぞれの指標が「割合」であることを確認しておこう。「都市人口率」、「外国生まれの人口の割合」、「貧困水準以下の収入の人口の割合」、「持ち家率」。率と割合という言葉が混在しているけれど、もちろん全部「割合」だね。相対的な数値となっている。階級区分図は相対分布を示す図なのだ。


こういった問題の場合、先に指標に注目。指標同士の間に関係性がないか考えてみよう。外国生まれということは移民なわけだね。彼らが貧困である確率は高いと思う。そして転入者であり、さらに貧困でもあるため、家のような不動産を所有しているケースは少ないだろう。なるほど、「外国生まれの人口の割合」、「貧困水準以下の収入の人口の割合」は比例する傾向にあり、いずれも「持ち家率」とは反比例する。このことを念頭に入れて問題を解いてみよう。


では図をみながら一つ一つ検討していく。やっぱポイントは太平洋岸やメキシコとの国境だと思うんだよね。メキシコから流入するヒスパニック、中国からやってくるアジア系の移民。彼らが多いのはメキシコ国境沿いと太平洋岸であり、そういった州における外国生まれの割合は高いと思う。これ。問3のワシントン州のデータも参考になる(ネタかぶりが多すぎるんじゃないか)。


メキシコ国境が全て「高」となっているのはムだが、太平洋岸に「高」はなく、とくにワシントン州は「低」である。マは太平洋岸が全て「高」であり、メキシコ国境沿いも一つが「中」である以外は全て「高」。これを「外国生まれの人口の割合」とみて妥当だろう。ちなみに南東部に突き出したフロリダ半島を主とするフロリダ州もカリブ海からの移民が多い州であるし、北東部のニューヨーク州も全米最大の都市ニューヨークを要し、ヒスパニックや中国系だけでなく、世界中から多くの人々が集まってくる。この2つの州がマで「高」となっている点に注目しよう。


ミとムの判定。ここでおもしろいのは。ミとムが全く反対の傾向を見せているということ。ミで「低」いところの多くがムでは「高」となっており、反対にミで「高」いところがムでは「低」い。なるほど、たしかに「持ち家率」と「貧困水準以下の収入の人口の割合」は反比例するはずだ。


さらに言えば、移民でもとくにメキシコから国境を越えてくるヒスパニックは貧困であることが多いと思う。中国系の移民がチャイナタウンで商売を行い、さらに裕福になる者も少なくないこととは対照的。メキシコ国境沿いで割合の高いムが「貧困水準〜」なのだろう。さらに注目するべきはいわゆる「南部」。アメリカ合衆国で南部という場合は、実際には南東部を指すことを知っておこう。テキサス州は南部ではなく、「西部」なのだ。テキサス州の東に隣接するルイジアナ州(Lの形をしているね)からフロリダ州の北に接するジョージア州(コカ・コーラの本社があるアトランタが主要都市)までの範囲を大まかに「南部」と考えたらいい。アメリカ合衆国の内戦である南北戦争の際には、これらの地域がアメリカ連合を宣言し「南軍」として戦った。この地域はヨーロッパ系の資産家によって綿花プランテーションが開かれ、アフリカから連れてきた奴隷の労働力によって商品作物の栽培が行われていた。19世紀後半に奴隷解放宣言が出され、アフリカ系の奴隷たちに自由が与えられたものの、経済的な地位は依然として低く、貧困層が多いのもアフリカ系の人たちの特徴である。アフリカ系の人たちこそ、何代にも渡ってアメリカ国内に居住し、間違いなく「生粋のアメリカ人」なのだが、未だに差別的な扱いを受けることがあり、社会的地位も低い。ムで南部地域が「高」となっている点に注目。


残ったミが「持ち家率」。全体として農村地域で「高」となっているようだ。先ほど、ムとミが反比例の関係にあると言ったが、ミは「都市人口率」とも反比例の傾向があるようだ(かといって、都市人口率とムが比例しているわけではないのがおもしろい。この辺り、興味がある人はさらに深く分析してみよう)。都市には一時的な転入者が多く、その分だけ持ち家率が下がるのだろう。あれ?こんな問題、他にもあったな。そうか、第3問問5の「賃貸用の住宅」っていうトピックだ。転出者や転入者が多いことから、賃貸用の物件が多くなっているっていうことか。ここもネタかぶりしてるな。意図的にやっているのだろうか。よくわからないなぁ。


最後になるが、大きな疑問として「都市人口率」の表って必要だったんだろうか。これ、無くても十分に解けるんじゃない?よくわからない問題。



[26][インプレッション]今度は政治ネタが入ってるね。科目横断的な問題を取り入れているのが共通テストの特徴。とはいえ、公民(政治経済)に関する知識が必要ってわけでもないと思う。


[解法]図を漠然と見ても仕方ないので、文章を先に読んでしまおう。「両時点とも民主党の候補者が選挙人を獲得した州」は、「南部」にはないんじゃないかな。アメリカ合衆国で南部という場合には実際には南東部を指すので注意。テキサス州は「西部」。テキサス州の東に接するルイジアナ州(Lの形)からジョージア州(フロリダ州の北に接する)までを南部と考えればいい。


・ジョージア州・・・コカ・コーラ本社のあるアトランタ。マーチン・ルーサー・キング牧師の公民権運動の中心。

・ルイジアナ州・・・ミシシッピ川の河港を有するニューオーリンズ。黒人音楽とアメリカ南部の伝統音楽が基となりジャズが生まれた。


ラについては「ニューイングランドや西海岸」が該当。西海岸はワシントン州(シアトルの航空機工業)、カリフォルニア州(シリコンバレーやハリウッド)。ニューイングランド地方は知らないかな。北東部のマサチューセッツ州を中心とした地域で、まずこの地にイギリス人がやってきて北アメリカ大陸の植民地化が始まった。「古いアメリカ」であり、スティーブン・キングの小説の舞台はここ。ちょっと怪しい雰囲気のある地方だね。


さらに文章の後半。「グローバル化の影響で衰退したこの地域の製造業」を救うための政策が主張されたと考えるべきだろうね。「グローバル化=国際化」であり、国境を越えて外国に工場が進出したことで、旧来の工業地域では「産業の空洞化」が生じた。これはもちろんアメリカ合衆国だけに言えることではなく、日本でも広くみられ深刻な社会問題につながる。しかし、長期的にみれば、こうした「低賃金労働」は発展途上国へと任せ、先進国は知識産業を中心とした新しい産業へと転換した方がいい。


おっと、話が逸れました。要は外国へと工場を進出させるのをやめて、逆に国内も工場を取り戻すということ。「工場の海外移転を抑制する」ということだね。4が正解。ただし、しつこいようだけれど、僕はこれは歓迎しない。長期的にみた場合には、発展途上国の工業化が進むことで世界全体の経済レベルが向上し、人々の生活も豊かになる。そもそも外国との関係を断ってしない、「自国主義」に陥ることは危うい。国際間での経済的連携があってこそ、お互いの価値を認め合い、不要な対立(つまり戦争)を避けられるというもの。グローバル化、ボーダーレス化(カタカナ言葉でわかりにくいですが、要するに「国際化」だね)は世界平和を生むのです。