2004年度地理B本試験[第2問]解説

2004年地理B本試験[第2問]

前年度にも南北アメリカ大陸の農牧業というテーマの大問が取り上げられていたが、このような特定の地域を取り上げた系統地理的な出題というのは最近の傾向でもある。難易度そのものは、問1・問6が難しい以外は適当であり、せいぜい2問ロスで乗り切ってほしいところ。

 

問1 [評価] 正解率は低かったし、僕もかなり考えてしまった。とはいえ決して悪問とはいえないと思う。このくらいの難易度の問題は当然あって然るべきだよ。センター頻出の「緑の革命」ネタが応用されているわけだから。

[解法] 初めてみるグラフであるためにちょっと考え込んでしまった。とはいえ、アジアの食糧生産におけるキーワードを過去に出題された中から考えてみると「緑の革命」しか思い浮かばないわけだ。例えばインドではかつては食料輸入国であったのに、「緑の革命」と呼ばれる農業の合理化・近代化が行われた末にむしろ食料輸出国へと転化した。人口10億を超える国としてこれは驚異的なことだと思う。この影響はもちろんこのグラフに反映されているわけだし、アジアにはインド以外にも緑の革命による食糧増産に成功した国はあるだろうから、これより1を正解と判定するのは決して無理なことではない。

[関連問題] 実は思いっきり似た問題が出題されているのだ。01B追第4問問1参照。大陸ごとの「食料生産の年平均増加率」が表の中に示されている。2がアジアなのだが、確かに増加率は高いようだ。

しかし正直言ってこの問題はノーチェックだったなあ(涙)。問われているのがアフリカであることもあるし、「人口の年平均増加率」だけ見れば解答可能な問題なので、食料生産に関するデータまで気が回らなかった。僕も全然気がつかず、改めて赤本を眺めていたらたまたまこの問題に出会ったというわけ。う~ん、こんなところに元ネタがあったとは、恐れ入りました。

それはさておき、「緑の革命」に関するネタは過去にも出題されているので、こちらもチェックしておこう。99B追第5問問2選択肢4参照。「緑の革命」によって、貧富の差は拡大したが(設備や種子買い入れのため、富裕層でなければ緑の革命は行えないので)、全体として食料の増産が進んだことが述べられている。直接的な関連問題ではないが、一応02B追第4問問3も参照。緑の革命といえば教科書などではアジア地域のものが有名であるが、このように世界的規模で行われたものであることが示されている。もちろんキーワードは農業の近代化による食料増産。

関連問題というほどのものでもないかもしれないが、参考になりそうなので98B追第1問問8も挙げておこうか。こちらは本問と似た形式のグラフが登場しているが、工業製品出荷額に関するもの。日本を当てろというわけだが、最も個性的な動きをしている2が正解となる。80年を100とした数値で、75年の段階ではこの2の値が他の国と比べて低く、それに対し90年ごろには非常に高い数値となっている。この動きが何となく(というか明らかに?)本問におけるアジアの動きと一致している。とにかく答にこまったら最も特徴のはっきりしたものを正解にしろということなのかもしれない。一応参考までに。

[対策・今後の学習] やっぱり過去問を研究するしかないんだろうなぁ。それでもこの問題は難しいし、できるとは限らないけどね。過去問では文章正誤問題において緑の革命ネタが登場しただけで、それを本問のようにグラフ問題に応用できるかどうかっていうのはどうしても難しい。いい問題ではあるんだが、それだからと言って確実な解法があるかといえば、そうでもないってことだね(涙)。

 

問2 [評価] 統計を意識した問題であり典型的なセンター問題といえる。第1問問1からバカ正直に解き始めた受験生は9問目にしてやっと初めてセンター的かつ容易な良問に出会ったといえる。確実に得点しなくてはいけない。

[解法] 世界全図やアジア全図においては日本を中心に考えていくのが大原則。ここでもそれに従ってみよう。Aは日本が低く、Bでは中ぐらい、Cでは高くなっている。これだけでわかるんじゃない?

3つの指標の中で日本が低いと思われるのはどれだろう。日本のような先進国で一般的に低くなる傾向にあるのは農業就業人口率。これはほぼ第1次産業人口率と同義なのだが、イギリス2%・米国3%などが頻出。日本も6%程度であり、発展途上国の多くが数十%の高い数値になるのと明確な差異がある。

これにより日本で低い値となっているAを「農業就業人口率」と考える。中国・東南アジア・インドなどで高い値となっているが、これらの地域では米作が行われており、農村で多くの人口が農業に従事しているのではないだろうか。それに対し、サウジアラビアなどでは低くなっているが、世界的な原油産出国でもあり、鉱業従事者(第2次産業)や豊かなオイルマネーを生かした商業(第3次産業)などが発達しているのではないかと想像できる。

では日本が高くなるのはどの指標か。先進国日本は農業技術の面においても、先進的な技術が導入されていると見ていいだろう。もちろんイギリスや米国に比べれば、人口当たりの農民の数も多く、まだまだ不合理な農業がみられるわけだが、それでもアジアの中においては最も近代的な農業が行われているはずである。このことから、少なくとも日本において土地生産性が低いとは思えない。

土地生産性とは、どれだけ土地(農地)が効率よく使用されているかを示す目安で、狭い土地で収穫量が多ければ高く、広い土地で収穫量が少なければ低くなる。具体的には、「年間の収穫量(kg)÷農地面積(ha)」の式によって求められる「1ha当たり収量」を基準とする。

これよりBが「穀物の土地生産性」と考える。日本の他、韓国やインドネシアでも高い数値となっているが、韓国はアジアの中では経済レベルの高い地域であって農業も比較的合理化されていると思われ、インドネシアでは高温で年中湿潤な気候を利用し、二期作や三期作も一般的に行われているのではないかと解釈する。それに比べて乾燥アジアで全体的に低い値になっている点もとくに矛盾はないだろう(注1)。

残ったCが「耕地率」。日本は「中」となっている。わが国の土地利用割合で必ず知っておいてほしいのが森林率で約65%。国土の2/3が森林で覆われているということになる。このことから考えて、少なくとも耕地率は35%以下である。実際には住宅地など市街地、荒地や牧場など他のさまざまな土地利用パターンもみられるのだから、せいぜいその半分か1/3ぐらいになるのではないか。

アラビア半島などの乾燥地域や、モンゴルなど半乾燥の草原国において、「低」となっているのも納得だろう。それとは反対にインドやバングラデシュの値が「高」となっているがこれには納得だろうか。インドは農業がさかんな国で、北部ガンジス川のほとりには水田や小麦畑が広がり、半島部の高原では綿花栽培がさかんである。バングラデシュにしても、巨大な河川の形成する三角州に国土が広がり、低地の面積割合が広いため、国土の広い範囲が水田に適した地形となっているのだ。ちなみにインドもバングラデシュも人口密度が高い国である。気候や地形の面において耕地を開きやすい条件がそろっており、その分だけ米など穀物の生産量も増えるのだから、多くの人口を養うことができる。農業の人口を支える力、つまり「人口支持力」の高い国々といっていいだろう(注2)。

(注1)Bの「穀物の土地生産性」の図において、サウジアラビアが「高」となっている点を不審に思った者もいるかもしれない。おそらく世界最大の産油国であり豊富なオイルマネーを用い、近代的な農業経営が見られるのではないかと解釈しよう。それにCの「耕地率」の図から判断して、この国はもともと耕地面積は限られている。それを有効に利用しようとするために、土地生産性は比較的高くなっているのではないか(土地生産性の高低が、「収穫面積1ha当たり」が基準になっているのに注意。国土全体の面積が基準となっているわけではなく、あくまで水田や小麦畑の面積が基準になっているのだ。サウジアラビアは砂漠の国であり、耕地は狭いのだから、相対的に土地生産性は高くなった方が、むしろ妥当)。

(注2)それにしてもパキスタンの耕地割合の高さには驚かされる。この国はほぼ完全に乾燥気候に覆われた国であり、やや湿潤な北部にしても山岳・高原地域であるため、耕地など開ける条件ではない。外来河川インダス川周辺にさかんに耕地をつくったということなのだろうか。問題とは直接関係ないが、あらためて古代文明を成立させた河川の巨大なパワーを感じる。

[関連問題] 直接的な関連問題ではないかもしれないが、図の雰囲気などは02B第4問問6と似ている。これにしても日本を中心に見ていけば解答できる問題であることは言うまでもない(牛は北海道、豚は鹿児島、そして羊は国内にいない)。

また土地利用割合に関する問題は非常に多い。新課程導入後のものだけ挙げておく。

00B本第2問問5参照。赤道直下の高原に位置するケニア。サバンナが広がるこの国の土地利用について問われているが、インドの耕地率の高さもぜひともチェックしておくこと。

98B本第1問問6参照。パンパでの農業や牧畜に特徴がある国アルゼンチンの土地利用。

03B追第3問問2参照。草原の国モンゴル。カザフスタンとチェコというマナーな国の判定は難しいが。

ただしこれまではいずれも主に「牧場・牧草地」割合が重要視されていたのだが、本問では耕地率が取り上げられている点が目新しい。

農業就業人口率についてもしばしば取り上げられているが、以下が代表的な出題例。

01B追第3問問4ではイギリスの2%(厳密には「農林水産・狩猟」が1.8%であるが)が問題とされている。

01B追第4問問3参照。農業就業人口は発展途上国とくに米作国において高くなる傾向があるのだが、タイはその典型例。就業人口の半分以上が農業に従事している。米作がさかんな湿潤アジアにおいては、国民の多くが農村部に住み、米作を中心とした農業を営んでいると考える。そこには「豊かな農村」があるわけだ。タイの都市人口割合の低さ(20%。つまり農村人口が多いということ)、第1次産業人口割合の高さ(ここでは農業就業人口とされているが、ほぼ同じものと考えていい。60%)を統計で確認しておく。

穀物の土地生産性についても今回が初めてではない。01B追第4問問3がその代表的なところ。「耕地1ha当たりの穀物生産量」が示されている。タイを当てる問題なので、すでに述べたように問題自体は「農業就業人口の割合」で解くことができる。

またサウジアラビアの小麦生産については99B本第4問問1選択肢1で話題とされているので参考にするといい。この国については、乾燥国であり本来小麦の栽培には適さないものの、豊かなオイルマネーを生かして人工的に生育環境を整えた。現在では完全自給を達成し、輸出国へと転化している。

[対策・今後の学習] 上記で挙げた数値については統計表で確認しておくこと。統計を中心に考えていく思考を身につけるべきだが、そのためには常に統計表をチェックし、具体的な数字で物をとらえることを習慣づける。

 

問3 [評価] これも難問の部類。ただし悪問ではない。

おもしろいのは文章正誤問題でありながら、実は統計が重要視されているという点。むしろ統計問題と言い切ってしまってもいい。またバングラデシュについては前年に貿易統計が取り上げられており、ここでも過去問の研究が重要であることが明らか。

[解法] まず確実なものから消していこう。3が決定的。マレーシアは世界最大の油ヤシ生産国。パーム油の統計を確認。これに対し、コーヒー生産のさかんな国はブラジル・ベトナム・コロンビア、カカオはコートジボアール・ガーナであり、このことだけ考えても油ヤシからコーヒー・カカオに転換されたことについては疑問を持たざるを得ない。少なくともマレーシアはカカオやコーヒーの国ではないのだからまずこの選択肢が消える。

さらに2。米の輸出についてはとりあえずタイだけは絶対に知らなくてはいけないが、だからといってバングラデシュが米輸出国ではないと断言できない。ただしこの国のキャラクターを考えた時に果たして米の輸出余力があるかどうかというのは大きな疑問。バングラデシュの特徴は何と言ってもその人口密度の高さ。1億4千万人もの人口がわが国の3分の1しかない国土に集まっており、人口密度は1000人/人を超える。このような過密国において、人口をまかなって余りあるほどの米が生産できるものなのだろうか。

そしてここからである。1と4が残る。たしかに難しいのではあるが、ある程度は常識的な線で考えないといけない。「野菜」が「小麦」を上回るだろうか。小麦といえば主穀である。そもそもこれがなければ腹がふくれない。おかずに過ぎない野菜の生産を優先し、小麦が軽視されることがあるのだろうか。アジアの農業は原則的に自給的な農業形態である。商業的な農業が行われている地域では価格の高い野菜などの栽培を中心に行う(例;園芸農業)こともあるが、アジアの乾燥地域においてそのようなことがあるだろうか。ここに疑問点がある。

以上より消去法で1を正解とする。たしかにわが国における最大のバナナ輸入先はフィリピンでもあるし、とくに間違いはないだろう。フィリピンに、日本の農園が多いのは距離的な近さからも納得できるが、米国については疑問かもしれない。しかしこの国がかつて米国の植民地支配を受けていたことを考えれば、米国資本によるバナナ農園があったとしても不思議ではないだろう。英語も用いられていることもあり、我々が思う以上に米国の影響が強い国なのかもしれない。

ちなみに選択肢2や4において、ガンジス、ブラマプトラ、インダスなどの固有名詞に誤りがあるのではないかと疑った者もいるかもしれないが、まずそんなことはないので安心してほしい。センター試験でカタカナ言葉に誤りが存在する可能性は低く、とくにこのような地名に関しては尚更である。「地名が間違っているはずがない」と決め込んでしまっていい。そんなもの構ってられるか!

[関連問題] 1;バナナについての出題は98B本第1問問3。ここではエクアドルが輸出国として重要とされているが、ぜひともフィリピンも押さえておきたいところ。わが国のバナナの輸入先は時代とともに移り変わってきた。最初は台湾から、さらにエクアドルへと輸入先が移り、現在はフィリピンからが圧倒的。この変化を労働者の賃金(つまり1人当たりGNPの高低)に関連付けて考えるのが良策。この3カ国のうちで、1人当たりGNPが最も高いのが台湾で、次いでエクアドル、最も低いのがフィリピンである。バナナ栽培のための労働コストが最も高い台湾を避け、エクアドルへと移動、そしてさらに安価な働き手のいるフィリピンへと主な輸入先が移動していく。1人当たりGNPと賃金水準との関係を考えれば納得できるだろう。

2;バングラデシュについて。日本を上回る人口大国なのでもちろん問題として取り上げられる機会も多い。

本問の直接的な関連問題は前年度にある。03B本第3問問5参照。バングラデシュの貿易統計がそのまま出題されている。衣類や繊維品(おそらくジュートだろう)の輸出が多く、米は主要な輸出品目とはなっていない。ただしこの問題はとんでもない悪問であり、普通に考えて正解できるわけはない。あまり参考にはならないかもしれないが、一応、全く同じネタが2年続けて登場した例として注目してもいいだろう。

これ以外にもバングラデシュが話題とされている問題を挙げてみよう。いずれも低地国であることが最大のキーワード。

99B追第1問問2参照。ガンジス川・ブラマプトラ川のデルタ(三角州)に広がるバングラデシュの国土が示されている。標高10mに満たない土地の割合が高く、低地国であることがわかる。

99B本第1問問3参照。海水面が1m上がったらバングラデシュはどうなるのか。

00A追第2問問1参照。バングラデシュに●が集中している。これがサイクロンのもたらす高潮などによる水害であることは容易に想像できるだろう。

01B本第4問問3参照。バングラデシュがイスラム教国であることが問われている。

02B本第3問問4参照。これもバングラデシュの宗教。

04参照。ブラジルやメキシコと並び、人口規模が問われている。またこれら2つの国とは異なり、工業国ではないバングラデシュにおいては、1人当たりGNI(1人当たりGNPと同義)の値が極端に低くなることも知っておくといい。

また米の輸出統計は01B本題1問問6で出題。ただしバングラデシュは登場していないのであまり参考にならないか。そもそも米は小麦に比べ貿易量が少なく、商品的な価値はさほど大きくはないのだから、このように問題として出題される率が高いというのも実に妙な話だったりするのだが。

3;マレーシアは工業のキャラクターを持った国であるので、農業に関する問題は出題されにくい。01B本第1問問4選択肢2ぐらいかな。でもこれにしてもマレーシアに限った話ではなく、東南アジアの高温湿潤な気候条件下では小麦は栽培されにくいという、生育条件を問うものであるし。

4;パキスタンの農業については出題されたことはない。ここではむしろ「野菜」の問題として捉えてみるべきか。野菜に関する問題はたいへん多いのでここでは省略する。自給的な農業地域であるインダス川流域では、主穀である小麦などの生産が優先され、商業的な性格も強い野菜はあまり栽培されない、ということ。

[対策・今後の学習] ニュアンスを読み取るのが難しい問題だとは思う。とくに「最も適当なもの」を選ぶ正文選択問題であるだけに、3つの誤文を指摘しないといけないので、その辺りがちょっと厳しいかな。文章をしっかり読み解いて、それを例えば統計や過去問から得られる知識などと対象させながら、じっくりと考えていく。普段からこういった文章正誤問題こそ時間を使って解く習慣をつけておこう。

 

問4 [評価] 大げさなグラフを使っているわりには問題は簡単。間違えないでしょ。まあ、たまにはこんな簡単な問題もあってもいいかな。

[解法] 単なる統計問題。世界最大の米輸出国はタイである。このことから単純に3を正解とすればいい。グラフの読み取りも難しくないよね。

[関連問題] 米の貿易については直前の問題問3でもバングラデシュをモチーフとして取り上げられているが、もちろんこれ以外でもセンター頻出の話題である。とくにタイに関するネタが多いので、米の輸出だけでなくタイの米作に関する問題もまとめてここで紹介することにする。

01B本第1問問6参照。タイの農業統計。米の生産自体はさほどでもないが、輸出は多く、自給率は133%にも達する。つまり作った米の4分の1は輸出に回しているということ。また同じく00B本第1問では問3で棚田、問4でマレーシアの穀物栽培について問題とされているのでよかったら参照する。

01B本第3問問6参照。米は中国・インド原産のものであり、乾燥アジアや北アフリカの伝統的な食べ物であるわけがない。

旧課程ではあるが、95本第1問が大問として米作を扱っていておもしろい。問1では米のイラストが問われ(これが案外難しかったりして!?)、問2では新課程ではまずみられないといっていいハイサーグラフによる問題で米の高温湿潤な生育環境が問われている。問3が最大の注目で、ここでは米の「生産量」「1ha当たりの収穫量(とくにことわりはないが、耕地1haという意味だと思う)」「輸出量」が表で示されているのだが、タイの値は非常に特徴的なのでチェックしておくこと。生産量自体はさほど多くなく、中国やインドのような人口大国には及ばない。1ha当たりの収穫量は大変低く、つまりタイは土地生産性の低い国なのだ。伝統的な浮稲が栽培されている地域もあり、また雨季乾季のはっきりとした気候でありながら天水に頼った農業が中心で、あまり灌漑設備が整っていないことなどがその理由。ただし輸出量は最大となっている。人口規模のわりに生産量が多く、輸出余力があるということ。

[対策・今後の学習] 米の輸出においてタイが首位であることを確認しておこう。また発展的な学習として、タイは米の生産自体はさほど多くないこと(世界6位)を確認し、他の米作上位国と比べて人口規模も小さいこと(6千万人)から、生産と消費の関係から輸出に回せる米の量が多いことを理解すること。

またこういった問題は翌年へと布石として利用されることも多い。例えば米の代表的な輸入国としてインドネシアの名前を押さえておいてもいいだろう。どこかで使う機会が出てくるかもしれない。

 

問5 [評価] すごくいいんじゃない?個人的には大好き。センター定番の野菜を用いた問題。野菜の輸入統計はセンター過去問にもあるし、必ず知っておかないといけない類のものであるからこそ、本問もミスは許されない。

[解法] 絶対的なセオリーとして「野菜は新鮮さが求められる」というものがある。できるだけ消費地の近くで生産し(近郊農業)、国内自給率も高く(日本では80%くらい)、輸入するとしても近隣国から。

わが国の農作物の輸入先は米国に偏っているが、野菜だけは例外で中国からの輸入が圧倒的に多い。これはやはり「新鮮さ」が重要なキーワードとなっている。遠距離の米国から輸入するより、近距離の中国からの輸入が有利なのだ。また工業国であり本来は食料輸出などできそうにない韓国からも比較的多く輸入されている点にも注意。この国は人口過密国であり(日本より人口密度が高い)食料に余裕があるはずはないのだが、それでも日本へと野菜の輸出は行われている。とにかく「近い」ということは野菜の生産には絶対的な優位点であるのだ。

[関連問題] 野菜の輸入先に関する統計が直接問われたのは99B本第3問問5。4つの品目のうちで解答として求められているものは野菜についてのデータであり、ここでも野菜の特殊性が重要なカギとなっている。

さらに野菜の問題としては97B追第2問問1・00B本第5問問5・などがある。97B追第2問問1では野菜の自給率の高さ、00B本第5問問5では野菜が輸送されにくいということ、98B本第4問問4では日本から韓国へと野菜が輸出されるのではなくむしろその反対であることが、それぞれ問われている。これ以外にも近郊農業のキーワードとして利用された例がいくつかある。野菜はキャラクターがはっきりしているので、出題されやすい。おっと、この大問でも問3選択肢4で野菜は登場しているね。

[対策・今後の対策] やはり統計は確実に押さえておくべきだろう。とくに本問の場合は過去に直接野菜の輸入統計が登場しているのだから、知っていて当然でもある。もちろん「野菜は新鮮さが求められる」というセオリーだけ知っておいてそれで解いたらいいのだが、そうなると(最も近隣である)韓国からの輸入がとくに多いのではないかという誤解も生じる恐れがある。実際にスーパーなどでは韓国産のマツタケなどが並んでいたりして、韓国産の野菜というのは中国産以上に我々の生活に身近である。セオリーとしての理解も重要であるが、やはり最低でも過去問で取り上げられたものについては統計を確認し、数字として(あるいは順位として。「1位中国50%」というデータとして)頭に叩き込んでおくことが必要だろう。

 

問6 [評価] 難しいぞ!?かなり考えた。北米はともかく、アジアとオセアニアで混乱してしまう。ドツボにはまったら帰ってこれないタイプの問題だけに、間違ってしまったとしてもしょうがないかな。諦めよう(涙)。

[解法] 日本の企業が工場を海外進出させる場合、先進国と発展途上国とではその目的にはっきりとした違いがある。先進国に対してのキーワードは「貿易摩擦の解消のための現地生産」。日本と米国の貿易関係は日本の輸出超(貿易黒字)、米国の輸入超(貿易赤字)である。とくに80年代にその傾向が顕著で、円高。貿易摩擦などが時代のキーワードとなった。この不均衡の解消のために、米国は日本からの自動車の輸入を制限した。しかし、だからといって米国内の日本車人気が落ちたわけでもなく、むしろ省エネルギーの時代、日本メーカーによる小型で燃費のいい自動車の需要は大きくなっているとみていい。この抑圧された状況に我慢する日本企業ではない。彼らは米国内に現地法人を設立し、そこで工業を操業させ「日本車」の製造を始めた。このことにより、表面的な統計では90年代に自動車生産において米国は日本を逆転する。しかし実質的には米国内で日本車が造られているだけの話であり、依然として日本企業(そして日系企業)の勢力は著しいのだ。

一方、発展途上国に対する工場進出については「安価な労働力の使用」がキーワードとなる。中国における衣類の生産を考えてみれば明らか。労働力を大量に使用する労働集約型工業であり、しかも製品価格は安い。中国のような安価で豊富な労働力の得られる地域にこそ工場は進出する。ただし先進国に自動車工場が造られるのとはわけが違い、これは中国国内での販売を目的としたものではない。、工場の多くは輸出加工区のように外国企業に税制面で優遇措置を与えた地区に建設されることになるが、ここで製造されたものは中国の国内へと持ち込まれることはなく、そのまま外国(つまり日本など)に輸出されるのだ。外国製の高品質の製品が国内に入って来てしまえば、国内の製造業は衰退してしまう。自国の産業の保護を目的として、外国製品の流入はできるだけ抑えたいのだ。

以上の点を意識しながら、問題に取り組んでみよう。

「進出先での販売を拡大するため」とあるが、この目的に最も適うのは、米国における自動車工業だろう。よってXを北アメリカと推定してみよう。逆にこの目的が最も小さいZを中国はじめとするアジアとする。オセアニアについては不明だが、とりあえず消去法でYとする。

ここからは矛盾点がないか検討していく。

「品質・価格面で日本への逆輸入が可能なため」という項目については、とくに価格面を重視したらいいだろう。、中国の工場で作った物は価格が安いため、日本へと持ち込むのもコスト的においしい。

「土地・建物などが安価なため」についてもやはり中国など発展途上国の経済レベルの低さを考えればいい。アジアは1人当たりGNIも低く、工場施設を安価に建設することができる。

「原料などの現地調達が容易なため」とあるがこれはどうだろう。問題文参照「食料品」とある。アジアも北アメリカもオセアニアも自然環境の豊かな地域であり、どこにおいても食料の原料となる農産物や畜産物は容易に手に入ると思われるが。3つの地域にさほど決定的な差異はないと思われる(それでもXが低く、Zが高いが)。

「良質で安価な労働力を確保できるため」とある。しかし、ここで全てが逆転する。大どんでん返し!今までZをアジアと決め付けて来たが、はたしてそれで正しかったのだろうか!?アジアの代表的な国である中国へと日本の工場が進出する理由は「安価な労働力を求めて」であったはずだ。わからん、ここで大きく悩んでしまうのだ。ここまでの考えをひっくり返して、Yをアジアとしないといけないのか!

さて、そうやって考えてみると、他の「理由」についてはどう解釈していったらいいだろうか。「進出先での販売を拡大するため」については、低い数値がオセアニアということになるが、これについてはこの地域の人口の少なさを反映しているのだろう。オーストラリアでわずか1500万人程度の人口規模であり、地域全体でも数千万人程度だろう。アジアや北アメリカとは文字通りケタが違う。

次の「逆輸入」についてはどうだろうか。これはよくわからないが、そういえば農産物だと思えば、納得できる点もなくはない。オーストラリアのような新大陸では大規模農法によって、農産物の価格は抑えられる(この点が工業製品と異なる)。「食料品を製造する日本の企業」であるので、オーストラリアにおけるこの農産物の価格の低さから、案外と日本へも輸出されているのかもしれない。

「土地・建物が安価なため」についてはどうか。これもよくわからない。オーストラリアは人口過疎国であり、広大な土地が余っているから、安価に土地や建物が確保しやすいということなのか???

「現地調達」については、食料品の原料なのだから農畜産物を考える。たしかにオーストラリアでは現地調達しやすいのかもしれない。

以上の点から、Zをオセアニアと判断して、無理なことはない。このことから、X;北アメリカ、Y;アジア、Z;オセアニアとする。う~ん、それでもどうも確信が持てないのだが、これは諦めるしかないか(涙)。

[関連問題] 「食料品」に限定した問題はみられないが、対外直接投資など海外へと進出する日本企業に関する問題は多い。近年のものを挙げておこう。

98B本第3問問4参照。海外直接投資とは具体的には外国に工場を建設することであるが、80年代には韓国、90年代前半にはマレーシア、90年代後半以降は中国へと、それぞれ日本メーカーの工場がさかんに建設されたことがわかる。1人当たりGNPは、韓国10000$/人、マレーシア4000$/人、中国は1000$/人。年代を追うごとに賃金水準の安い地域へと工場の進出先が移動していく様子がよくわかる。

03B本第4問問7参照。ここも同じく海外直接投資(対外直接投資)の問題。中国の急激な伸びがカギとなっている。

02B本第2問問3参照。海外現地法人の数が問われている。東南アジアの低所得国へと日系の工場が進出する様子。

02B本第2問問4参照。問3に続いて日本企業の現地法人について。労働力の安い中国へは、製品価格の安い工業が進出。

01B本第2問問3参照。対外直接投資と対内直接投資に関する問題。ちょっと難しいかな。

01B追第2問問5参照。米国とEUの違いはわかりにくいが、中国の判定は容易だろう。

[対策・今後の学習] 先にも述べたように間違えやすい問題だと思う。失点はやむを得ない。センター試験にはこういったタイプの問題も存在するわけで、どうしたって満点は取りにくいものだってことだけでも肝に銘じておこうか。

 

問7 [評価]やや現代社会に偏った問題。できなければできないで仕方がない。ただし中学校社会科の学習範囲とも重なっており(地理というより公民で学習する内容かもしれないが)、そこでしっかり勉強しておいた者にとっては簡単だったかも。

[解法] 1;どうだろう?わが国に食料輸出国のイメージがあるだろうか。そもそも自給的な農業形態に特徴のあるアジアの一国なわけだし、人口密度も高く平野も少なく(つまり人口のわりに耕地面積が狭いということ)余裕ある農業が行われているとは考えにくい。むしろ世界的な食料輸入国である。

2;91年に輸入が自由化されるなどして、オレンジの輸入量は増加した。また、農業就業者の高齢化や後継者不足などといった問題は現在社会の抱える一般的なものであり、とくに誤りとは考えられない。カギは「柑橘類の国内生産量は減少した」の正誤なのだが、これについては確信が持てないので保留。

3;さあ、どうだろうか。最近でこそBSE(牛肉)問題で米国からの牛肉輸入が制限されたものの、逆にこれが大きな社会問題となるということは、むしろわが国の牛肉供給の大きな割合を米国からの輸入に頼っていたということの証拠に他ならない(それに、近いうちに米国牛の輸入も再開されるであろう)。また同じく今回のBSE騒動で話題となったが、米国がダメならオーストラリアからの輸入を拡大すればいいではないかという考え方もあるなど、いずれにせよ日本国内には海外から輸入された牛肉が広く出回っていることが想像できよう。

もちろん松坂牛や神戸牛など高級和牛の人気も根強い。しかし、輸入が自由化されたことでとくに安価となった外国牛の輸入が「増加しなかった」と考えるのはあまりに不自然ではないか。

4;あきらかに不審な点がいくつかある。「国内の漁獲量が増加」しているのだろうか。オイルショックによる燃料コスト高騰や200カイリ漁業専管水域の設定による漁場制限によってわが国の遠洋漁業は大きなダメージを受けたのではないか。また日本の近海で行われる沖合漁業にしても、例えばオホーツク海や北方領土周辺海域における漁業規制(ロシアが漁業優先権を主張し、日本の船舶は漁業が不可能となっている)などによって、漁獲は減少しているのが現状である。

また「アジア各国からの水産物輸入量は減少した」のだろうか。わが国が世界を代表する水産物輸入国であることは疑いのないことだと思う。寒海魚であるニシンなどはロシアなど北洋漁場に面した国からの輸入が主であろうが、それでもわが国の最大の輸入魚介類はエビである。これは温暖な海域での養殖によって主に生産されているものであり、とくにインドネシア産のものが多い。このことから「インドネシアからのエビの輸入が減少しているわけはない」と考え、さらに「水産物輸入が減少しているわけはない」と連想することは可能だろう。

以上より、消去法で2を正解としよう。そもそもこの選択肢だけ他のものとはベクトルの方向が違うようだ。1「米をさかんに輸出している」、3「国内牛が主で、輸入は少ない」、4「漁獲が増加し、輸入が減った」という3つの選択肢に比較し、2のみは「柑橘類は輸入が増加し、国内生産量は減少した」と、全く反対のことを述べている。仲間外れの選択肢である2をはっきりを誤りとできる。

[関連問題] 1;米については、95追第1問がまるごと米に付いての問題なのでこれを参照するといい。とくに問3では日本の輸出量が0ということが表で示されている。

2;直接的な関連問題は、00B本第5問問4。3がミカンなのだが、その生産量は年を追うごとにガタ減り。また97B追第2問問1も参考になるだろう。オレンジ(と牛肉)の輸入制限は緩和され、その自給率は低下している。

3;オレンジと同じく97B追第2問問1は参考になる。またその問2では牛肉の自給率の推移が示されているので、チェックしておくといいだろう。

4;日本の水産業については01B追第4問問7がわかりやすい。ここ30年で就業者は半減、漁獲も全体的に減少(とくに遠洋!)しているのに対して、水産物輸入量が10倍に膨れ上がっている。

また輸入魚介類の代表としてエビがあるが、これについても取り上げられた例が見られる。03A追第3問問4、00B追第3問問5など。

[対策・今後の学習] この問題を解く最大のポイントは文章のニュアンスに敏感になることだと思う。選択肢2だけ、他と比べてどうもベクトルの方向が違うように思えたら、それで勝ちなんだが。でもなかなかそうもいかないよね。センター問題に慣れること、国語力をつけること、冷静な判断力を身につけること、っていうかそもそもそんなことは全ての問題に当てはまる必勝法だよね(笑)。

とりあえず、最低限できることだけでもやっておこう。それはやっぱり統計の確認。以下のものについて、統計要覧などを用いて確認しておくこと。

日本の米の生産量あ(「統計要覧」p56③);世界ベスト10には入っているが、とくに生産量が増えているわけでもない。国内での自給率は高いが、輸出するまでには至っていない。

米の代表的な輸出国(「統計要覧」p56⑤);1位のタイは非常に重要であるが、これ以外に中国やインドのような大国、そして農業が商業的に行われている米国などが代表的な輸出国。日本は当然入っていない。

果実の国内自給率(「統計要覧」p70④);肉類と同様に、近年は低下の一途。

牛肉の輸入量・自給率(「統計要覧」p70④の「肉類」参照);91年の牛肉・オレンジの輸入自由化によって、この2つの品目の自給率は急激に低下しており、ともにせいぜい50%程度。

漁獲量(「統計要覧」p69③);全体としてわが国の水産物生産量は減少している。とくに遠洋漁業などは壊滅状態。

水産物輸入量(「統計要覧」p69⑤、p70③);日本が世界最大の水産物輸入国であり、その自給率も約50%に過ぎない。これらの統計からは年代ごとの推移は測れないが、昔に比べたら輸入量が増加しているのではないかということは十分に推定できるであろう。