2015年度地理B本試験[第4問]問1 解説

第4問 南アメリカ地誌。地誌で選ばれた地域はこの5年間で、アフリカ(2011)、北アメリカ(2012)、南ヨーロッパ(2013)、西アジア(2014)、そして南アメリカの順。とくに際立った傾向はないし、予想しても意味ないか。小問題は、問1が自然環境、問2が地形、問3が農業(農作物)、問4が都市(ただし都市名は登場せず)、問5が貿易、問6が民族とバランスもいい。問5の貿易の問題でメルコスールが初登場。でも、問題としての難易度は高くないと思う。問6で読解力が必要になるけど、差がつくとしたらそこぐらいかな。

問1 [インプレッション] ペルーは三色団子の国。沿岸部の砂漠、中央部を縦断するアンデス高原、東部の熱帯雨林(アマゾン川の源流である)。3地域の区分が登場した問題なのだが、しかしそれにしてもこの写真、判別困難だな(涙)。アの砂漠は分かるとして、ウの熱帯雨林の判断が肝だよなぁ。その判別が解答のための絶対的条件となるのです。

[解法] A・B・Cの点がある国はペルー。問題解く上で国名は関係ないけれど、参考までに挙げておきます。
ペルーを含む南アメリカ太平洋岸低緯度地域(エクアドル〜ペルー〜チリ北部)は、寒流の影響によって大気が安定し、少雨地域となっている。乾燥の度合いが高く(降水量<蒸発量)、砂漠が形成されている。海岸冷涼砂漠という。ペルーの場合、ナスカの地上絵が有名だよね。あれがとくにペルーの沿岸部にあるんだけど、何百年間も地面に描かれた絵が消えないってすごくない?この地域が雨が降らないから、地上絵がずっとキープされているっていうことなんだよね。写真を見てみよう。アが明らかな砂漠.だよね。砂漠って「植生なし」という意味の植物用語なんだけれど、地形を表す語と考えてもいいかもしれないね、今回に関しては。砂によって地面が覆われ、そしてもちろん植生はみられない。アがAに該当。
さらに写真を観察してみよう。イがよくわからないのだ。草地なのかな、それとも単なる荒地?少なくとも樹木はみられない。背後に険しい山がそびえ、広く雪がみられる。えっ、雪だって?ペルーは赤道直下の国だぜ!?赤道直下とはいえ、標高6000メートルを越えるような場所には山岳氷河や万年雪がみられる(*)。イの写真については、地面の様子はイマイチわからないが、背後の峰々の様子から、ここが極めて標高の高い場所であることがわかる。
そしてウ。今度は一変して多雨な感じ。山の稜線に雲がかかっている。地面は多くの樹木で覆われているようだ。ジャングルだろうか。えっ、ペルーにジャングルってイメージない?いやいや、ベルーは実は森林面積割合の高いれっきとした森林国なのだ。西岸は砂漠(植生なし)、中央は山岳部(荒地や草原)なのにどこに森林があるかだって?ペルーの東部はブラジルと接しているよね。ブラジルからアマゾン低地が広がり、ペルー東部は熱帯雨林となっているのだ。よかったら地図でアマゾン川の流れを確認してみてほしい。ブラジルの河川と思いきや、実はその水源はペルーにあり、複数の国を流れる国際河川(**)となっている。広大なアマゾン低地の及ぶ範囲を確認してほしい。世界最大の流域面積を誇るアマゾン川なのだ。

(*)おおよそ気温は標高100メートルごとに0.5℃ずつ変化する。例えば赤道直下に標高6000メートルの山岳があって、麓では30℃(かなり暑い!)だったとすると、山頂では気温は0℃にまで低下する。これなら山岳氷河や雪があってもおかしくないよね。
(**)ちょっと誤解を招きそうな表現をしてしまったけれど、「国際河川=複数の国を流れる川」ではない。複数の国を流れ、そして沿岸国の自由航行が条約によって認められている河川、のこと。つまり内陸水運が活発であることもその条件の一つなのだ。アマゾン川(ペルー・ブラジル)の他、メコン川(中国・東南アジア)、ライン川(ドイツ・フランスなど)、ドナウ川(ドイツ・ハンガリーなど)、エルベ川(ドイツ・チェコ)などが重要。

[アフターアクション] 解法の説明ではペルーの3地域の自然環境にのみ言及したけれど、もっとシンプルに「分水嶺」の問題として考えていい。分水嶺すなわち水を分ける嶺(山)なのだが、
例えば日本列島の場合、比較的中央に分水嶺が位置し、太平洋側に近い場所に降った雨は太平洋に、日本海に近い場所に降った雨は日本海に、それぞれ流れていく。しかし、大陸によってはこの分水嶺が極端な位置になる場合も多く、例えばオーストラリア大陸などはこれが国土東端にあり(グレーとディバイディング山脈)、この山脈の東側(狭いエリアである)に降った雨は太平世に注ぐのに対し、西側の広い範囲の雨はインド洋側に流出することになる。南アメリカ大陸の場合は分水嶺がアンデス山脈となり、これが大陸西岸に沿っていることから、雨水の太平洋に注ぐ地域は大陸西岸のごく狭い地域(地点Aなど)に限定されるのに対し、大西洋へと流れていく範囲は大陸全体の極めて広い範囲(地点Cなど)に相当する。図中の地点Bのところに高い壁があることを考え、それにより東西の水の流れが決定する様子を想像してみよう。