2018年度地理B本試験[第3問]解説

<2018年度地理B本試験 第3問 生活文化と都市>

生活文化と都市に関する大問。これも最近のセンター試験では定番の大問。一部に細かい都市名が問われることがあり、その場合は難問も含まれるが

例年の傾向をみるに全体的には決して難しくない大問となる。第2問同様に統計が問われることが多く、その読み取り方がポイントになるのは言うまでもないね。

問1は国別の宗教構成に関する問題。本年は【21】でも同様のトピックから出題されているが、そちらほど本問は難しくない。ただ、宗教分布は学習の盲点になりやすいので、しっかり対策しておかないといけない。

問2は衣服。地理Bでは珍しいジャンルであり、さらに(写真を使用する問題は多いが)文章によって判別させるパターンは目新しい。

問3はマレーシア社会について。これは確実に加点しないと。

問4は1000万都市に関する知識が重要となっている。これがクリアできれば、君の「センター地理力」はかなりのもんだと思っていいと思うよ。

問5は簡単でしょう。考察問題として良問です。

問6も同じく問題だが、こちらはちょっと複雑。でも、これぐらい解いて欲しいなぁ。

問1,問3,問4はマスト。問2も何とか解いてほしいなぁ。問4と問6は思考力を目一杯発揮して欲しい。この大問で全問正解をゲットできるといい感じなんだけどな。

【13】【インプレッション】地理Bではあまり宗教に関する問題は一般的ではないが、数年に一回はこうしたベタな問題が登場するのでさほど意外でもない。ただ、本年は【 】でも同じような国ごとの宗教の割合が登場しているのだ。地域は違うものの、完全なネタかぶり。これ、めちゃめちゃ珍しい、特別な理由があると思うが、それについては【 】の部分で僕なりの考えを述べています。

【解法】ヨーロッパにおける国別の宗教人口の割合。ドイツは実はよく出る国なので、必ず知っておいて欲しいな。キーワードはバイエルン・ミュンヘン。

まず大まかなヨーロッパの宗教分布について。ほとんど全ての人がキリスト教を信仰しているのはわかるよね。南東部のバルカン半島には比較的イスラームが多い。旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナやコソボはイスラームの信仰地域である。元サッカー日本代表監督のハリルホジッチさんはイスラーム。

それ以外の地域は全域がキリスト教地域と考えていい。ただし、宗派が異なっている。本来、民族(言語)系統と宗教・宗派には関係がないのだが、ヨーロッパは例外的な地域で、民族(言語)系統ごとに主に信仰している宗派が決まっている(だからこそ、例外が大きな意味を持っているのだが)。

まず民族系統を整理しよう。北西部のイギリスや北ヨーロッパ、ドイツ、オランダなどは「ゲルマン系」の民族。英語とドイツ語には共通項が多く、デンマーク語とスウェーデン語など方言程度の違いであり、ほぼ同じ言語と考えてもいい。南西部のポルトガル、スペイン、フランス、イタリアなどは「ラテン(ロマンス)系」。例えばポルトガルの人々はフランスへと出稼ぎに出るのだが、ポルトガル語とフランス語は比較的よく似ており、移住したとしても生活に困ることが少ない。ポーランド以東の地域が「スラブ系」。ロシア人にドストエフスキーやチャイコフスキーなど末尾が「スキー」である名字が多いが、これはポーランドにルーツを持つもの。民族、言語的にロシアとポーランドは深い関係性を持つ。

宗派についてもこれと対応させよう。ゲルマン系の人々が主に信仰するのは「プロテスタント」。例えば、北ヨーロッパの国の国旗で色違いで十字が描かれているよね。スウェーデンが青字に黄色とか、フィンランドが白地に青とか(おっと、フィンランドは民族はアジア系でゲルマン系じゃないや。ま、ここは宗教の話なので、一緒にしてしまっています。詳しくは【 】の解法を参照してください)。この十字は北ヨーロッパに勢力を伸ばすルーテル境界のシンボルで、プロテスタントに含まれる。

ラテン系が信仰するのが「カトリック」。ローマのバチカンを中心として世界最大の信者数を誇る宗派である。大航海時代以降、世界の広い地域への布教に熱心で、日本にやってきたスペイン人やポルトガル人の宣教師も多いよね(もっとも、そのせいで日本は「鎖国」を行い、カトリック国であるスペインとポルトガルを追い出した。プロテスタント国であるオランダは布教の意志はなく、交易が許された)。両国が広く植民地とした中央・南アメリカはラテンアメリカと称され、カトリック地域となっている。

スラブ系の人々の中で主流となっているのが「東方正教」。たた、カトリックと違い、国ごと民族ごとにその教義がやや異なっている。日本に伝わった大乗仏教が、日本の土着の宗教や神道と結びつき、独自の教えになったことと似ている。総称としては東方正教で構わないが、ロシア正教、ウクライナ正教、セルビア正教、ギリシャ正教(おっと、ギリシャはギリシャ系民族でスラブ系じゃないけれど。ま。東方正教ということでここではまとめてお話ししてしまっています)は、実はそれぞれちょっとずつ違う。

以上より、「北西部=ゲルマン系=プロテスタント」、「南西部=ラテン系=カトリック」、「東部=スラブ系=東方正教」という大原則が成り立つ。

本問についてはこれだけで十分に解くことができるだろう。4か中、北西部に位置するのはドイツのみ。①〜④のうち、比較的プロテスタントが多いのは②だけ。容易にドイツと②を結びつけることができるね。これが正解。

ただし、もう少し考えてみよう。先にも述べたように、例外があるのだ。というかそもそも民族と宗教の間に関係性は薄いので、例外があって当たり前。そこがテストで狙われることも多いので、ここできちんと整理しておく。

ポイントになるのは「ドイツ南部」と「ポーランド」。ドイツは北西ヨーロッパに位置し、プロテスタントが多いのだが、南部は異なった文化を有する地域であり、カトリック教徒が多い。とくにバイエルン州はかつて一つの国を形成していた地域であり、ドイツの他の地域への対抗心が強い。主要都市はミュンヘン。ブンデスリーガ(ドイツのサッカーリーグ)の強豪でバイエルン・ミュンヘンというチームがあるが、そういった独特の文化の中でチームの基礎が築かれてきたのだ。サッカーファンは「バイエルン・ミュンヘン=カトリック」と覚えておくといい。先代のローマ教皇ベネディクト16世はバイエルン州出身。史上初のゲルマン系のローマ教皇であった。

さらに、東ヨーロッパのうち、北部に位置する国々はカトリック教徒が多く、とくにポーランドは世界で最も敬虔(けいけん)なカトリック国として知られる。先々代のローマ教皇であるヨハネ・パウロ2世はポーランド出身で、こちらは史上初のスラブ系のローマ教皇であり、さらに唯一の社会主義地域から現れたローマ教皇でもある。最も優れた教皇と呼ばれ、トルコのイスタンブール訪問など、イスラーム社会との融合を目指すなど偉大なる足跡を残した。

以上のことを踏まえて、さらに表1を解析すると、なるほどプロテスタント国であるドイツに比較的カトリック教徒が多いことにも合点がいく。またカトリックの割合がとくに高く、無宗教の少ない④がポーランドであり、東方正教が多い③がギリシャであることもわかる。残った①がフランスであるが、たしかにカトリックが多数を占める国ではあるものの、移民の流入もあり、イスラームの割合も近年増加している。

【参考問題】(2012年度地理B本試験第3問問4)

ヨーロッパにおける宗教分布。Bの枠線はドイツからオーストリア、イタリアにかけて。ドイツ北部にはプロテスタントが多いが、ドイツ南部(バイエルン州)やオーストリア、イタリアはカトリックが主。

【アフターアクション】ドイツを特定する問題なので(他にゲルマン系の国がないので)、比較的容易だったと思う。また、世界で最も敬虔なクリスチャンの国であるポーランドが取り上げられていたり、東方正教の典型的な国である(東方正教はしばしば「ギリシャ正教」とも称される)ギリシャが登場しているなど、国のセレクトもわかりやすかった。その中でちょっとおもしろいと思ったのはフランス。フランスはラテン系の民族(言語)の国であり、カトリック国なのだが、実は宗教色は薄い国。近年はアラブ世界からの移民も多く(北アフリカのアラブ地域はかつてフランスの植民地だった)

イスラームも増加しているなど、多様性もみられる。

フランスでは公的な施設において宗教色の強い服装を禁じている。例えば、イスラームの女性が顔の一部を隠すヴェール(ブルカという)については、学校での着用は禁じられている。しかし、これはイスラームに対する差別というわけではなく、例えばクリスチャンの生徒についても十字架のペンダントを外すよう指導しているなど、全ての宗教について同様に行っていることなのだ。

宗教がより人々の生活の中に根付き、社会が宗教的価値観とともにあるからこそ、宗教の意味をあいまいなものにしない。教育現場においても宗教に関する教育をしっかりと行っており、宗教に関する偏見や差別意識を排除することに専心している。

【14】【インプレッション】 衣服の問題は、地理A的とまでは言わないが、地理Bの本試験で取り上げられるのはちょっと珍しいような。地域名だけじゃなく「熱帯」、「乾燥」、「高山」と自然環境を示すキーワードも含まれているのは親切。ア〜ウの選択肢も比較的長文だが、全体を読むのではなく、ポイントとなる言葉だけを取り出して読むテクニックが有効。「毛」、「麻」や「綿」などの素材はもちろん重要であるし、「撥水性・断熱性」、「放熱性・吸水性」、「強い日差し」なんてところにも注目してみよう。

【解法】生活文化に関する問題は最近増えているが、地理Bの本試験で衣服の問題が登場するのは珍しい。また、これまでの衣服の問題はイラストや写真を使うものが多かったが本問は文章。ただ、文章であるからこそキーワードが広いやすく解きやすいということもある。

まず3つの地域の特徴について。「東南アジアの熱帯地域」、「西アジアの乾燥地域」、「南アメリカの高山地域」とある。「熱帯」、「乾燥」、「高山」という自然環境を表すキーワードだけピックアップすればいいが、せっかくなので注意して欲しいのは「南アメリカ」だね。南アメリカの高山といえばアンデス山脈。とくに人々が居住し、生活を営むのは低緯度地域で(高緯度ならば寒くて住めないね。チリとアルゼンチンの国境のアンデス山脈には氷雪もみられる)。アンデスの「低緯度・高原」をしっかり意識して欲しいかな。つまり、標高が高い分だけ気温は下がり、赤道に近いが決して炎暑の気候ではない。

では、ア〜ウの文章に注目して、それぞれのキーワードを拾っていく。アは「撥水性・断熱性」と「毛織物」、イは「放熱性や吸水性」と「麻」」、ウは「綿」と「強い日差しから身を守る」である。まずわかりやすいのは「放熱性」だろうか。熱を放つということは、そもそもが暑い地域であり、体と衣服の間に熱をためないようなつくりになっているということ。なるほど、「麻」といえば涼しげな素材だよね。夏のシャツなんかは麻でつくられていることが多い。「吸水性」については汗を吸うと考えればいいんじゃないか。暑くて湿度が高いところなので、清涼感のある素材である麻で衣服をつくる。これ、「熱帯地域」と考えていいんじゃないかな。

逆にアには「毛織物」とある。「断熱性」の意味がわかるかな。例えば寒冷地では家屋を断熱性をもって建築する。部屋の中を温暖に保ちつつ、冷たい外気の影響を遮断する。断熱については寒冷地のキーワードとみてとくに問題ないんじゃないかな。とくにここでは「毛織物」とある。これは熱帯など高温の地域では衣服に使う素材ではない。防寒に用いるものである。これらのことから、アについては気温の低い地域と考え、「高原」と判定する。

残ったウが「乾燥」である。乾燥するということはもちろん気温は高めである。乾燥とは「降水量<蒸発量」であり、蒸発量が多いことすなわち気温が高いことも条件の一つになるからだ。そういった地域で「綿」で衣服をつくることは自然なこと。「西アジア」たとえばイランやサウジアラビアを想像すれば、「強い日差し」も納得だろう。また「頭部を覆う布」や「全身を覆う」など、イスラーム圏の女性の宗教的な服装によくみられるものである。西アジアの乾燥地域で発生したイスラームは、砂埃から守るために頭髪を隠し、激しい日射を避けるために衣服で全身を覆うという伝統的な着衣を教義に加えている。以上より、正解は④である。

【関連問題】とくになし。

【アフターアクション】衣服について文章で説明されるとちょっとわかりにくいね。これまでは写真を用いて出題されることが多かったので、手こずってしまった。文章全体を読むのではなく、ポイントを絞ってキーワードだけ拾い上げることが大切だったと思うよ。とくに「毛織物」、「麻」、「綿」っていう素材名はわかりやすかったと思う。重要だったのは南アメリカ

インディオの伝統的な衣服である「ポンチョ」。これについては画像検索などしておいてください。

【15】【インプレッション】いきなりマレーシア。ちょっと強引な感じで登場させているな。問題自体は簡単なんで、平均点調整用の問題なんでしょう。誰でもできる問題、誰もできない問題、いずれが多くとも平均点の見当はつけやすいからね。今回は全体として難問が目立つ割に平均点が高かったのは、こうした問題が多かったことが背景にあるのでしょう。

【解法】マレーシアは多民族国家である。先住のマレー系が60%、移民にルーツを持つ中国系が30%、インド系が10%というバランス。民族系統ごとに経済力には差があり、農村に多いマレー系は所得水準が低く、都市部を中心に居住する移民系とくに中国系の人々は経済の中心を成す。そのため、マレー系を経済的にも社会的にも優遇するブミプトラ政策が実施されることとなった。

カは「ブミプトラ」政策。問題文にあるように「雇用や教育」などの面でマレー系は優遇されている。官公庁や警察、軍においてはマレー系の人々の雇用が優先され、奨学金もマレー系の子弟に中心に与えられている。マレー系企業に対する融資、農地への入植もやはりマレー系が優先。このことに対する移民系の人々の不満も潜在的には存在しているものの、社会的な混乱にまでは至っていない。

キは「中国」系。イギリスの植民地時代にプランテーション(天然ゴム)労働力として、あるいは鉱山(当時、銅鉱がさかんに産出されていた)労働力として、外国から多くの移民がマレー地域に流入した。中国系の人々は国際ネットワークを利用して経済的に成功を収めるものが多く、マレーシアのみならず東南アジア全域で経済的なリーダーとなっている。

なお、「ルックイースト」政策はマレーシアの工業化に関するもの。日本や韓国など東アジア諸国にならい、電気機械など重工業の発達を促す。工業化が成し遂げられた現在は「もはや日本から学ぶものはない」と、ルックイースト(東を見よ!)の掛け声は過去のものとなっている。

「アラブ」人たちは、古い時代より東南アジアの島しょ部を交易のため訪れていた。インドネシアで栽培される香料をヨーロッパ世界へともたらしていた。しかし、アラブは人口が多い地域でもなく、とくに東南アジア地域への移民は生じなかった。あくまで移民を多く送り出したのは、中国南部やインド南部など、人口が多く、耕地に恵まれない(両地域とも山がちで平坦な土地が少ない)場所である。人口支持力(農業によって人口を支える力)が低く、人々は貧しい暮らしを送っていた。労働力需要の高まったマレー半島に彼らは活路を見出したのだ。

【関連問題】とくになし。

【アフターアクション】マレーシアは特徴的な国である。

・人口・・・3000万人。意外に少ないでしょ?

・1人当たりGNI・・・約10000ドル/人。人口小国であるシンガポールやブルネイより低いが、工業国タイ(6000ドル/人)より高い。1人当たりGNIが10000ドル/人である国は新興工業国に多く、他にはトルコやルーマニア、ロシア、メキシコ、アルゼンチン。ブラジル。

・面積・・・30万平方キロ。マレー半島とカリマンタン島北部。日本より少しだけ小さい。フィリピンやベトナムとほぼ同じ。

・人口構成・・・マレー系(先住)が60%、中国系が30%、インド「タミル」系が10%。農村に居住するのはほとんどが先住系。移民系は都市に居住し、国際的なネットワークを利用して商業や金融業を営む。とくに中国系の人々は東南アジアの経済的実権を握る。公用語はマレー語。

・宗教・・・おおよそ民族構成に対応。イスラム教徒(マレー系)が60%、仏教(中国系)が30%、ヒンドゥー教(タミル系)が10%。イスラム教が国教とされている。

・歴史・・・かつては香料交易の中継地としてアラブ商人が訪れイスラム教が広められた。やがてイギリスの植民地隣、天然ゴム栽培が始められる。戦後、シンガポールとの連邦国家として独立したが、民族政策の相違により(マレーシアはマレー系優遇。シンガポールは中国系が多いため、反発)連邦解消。イギリス系のプランテーションの多くは国有化され、天然ゴムからアブラヤシへの植え替えが進んだ。

・工業・・・音響映像など電気機械工業が中心。首都郊外のサイバージャヤには先端産業地区。

・農業・・・パーム油の生産世界2位。日本へも輸出されている。

・鉱業資源・・・天然ガスが産出され、日本に輸出。

・産業政策・・・ルックイースト政策。日本や韓国を模範とし工業化を進めてきた。1990年代より急激な経済成長がみられ、今や日本や韓国に習うことはないと、「東を見よ」の合言葉は過去のものとなっている。

・経済政策・・・先住民優遇のブミプトラ政策。経済的地位の低いマレー系の人々を支援。奨学金の補助、企業への融資、公務員や軍への雇用斡旋、農園への入植など、さまざまな面においてマレー系への優遇が行われる。ただし、現在での中国系の経済的優位は変わらない。

【16】【インプレッション】定番の首位都市の問題(ここでの首位都市は国内で人口が最大の都市という意味。バングラデシュの首都はダッカだが、ここ、人口が1000万人規模の大都市。人口1000万人の都市は覚えておけよってめちゃめちゃ僕は言ってるぜ!

【解法】首位都市といえば、狭い意味でいえば、発展途上国における中心的な都市のことでタイのバンコク、ナイジェリアのラゴス、メキシコのメキシコシティなど。経済規模の小さな発展途上国においては特定の大都市にしか投資が集中せず、それ以外の都市はインフラ整備もおぼつかない。経済活動や産業が過度に集中し、結果として人口規模も巨大化する。発展途上国における唯一の突出した都市、それがプライメイトシティであり首位都市なのだ。

しかし、本問ではそういった狭義ではなく、選択肢にイタリアなど先進国も含まれていることから、広義での首位都市である。つまり、単にその国において人口が最大である都市のこと。極端に巨大化しているわけでもなく、他の都市が未発達であるわけでもない。まずこのことをふまえて考えていこう。

まずインド。人口14億に達しようとする巨大都市である。都市の規模はいくら巨大化しても1000万人レベルである(だからこそ、人口1000万人規模の都市は覚えておかないと。いけないのだ。これについてはアフターアクションで挙げておきます)。いくら1000万人を越えようという人口を有していようと、国全体の人口が10億人を超えるのだから、そレに占める割合は1%程度にしかならない。①がインドである。

さて、ここでバングラデシュについて考えよう。バングラデシュの人口は約1.5億人。首都ダッカの人口は1000万人に達するので、総人口に占める割合は10%近くに達する。君たちはもちろん人口1000万人の都市は絶対に知らないといけないよ!でも仮に、それを知らなかったとして、理論的に考えるアプローチを紹介しておこう。

ここで重要になるのは、都市人口率。国の総人口は都市人口と農村人口に分けられる。つまり「総人口=都市人口+農村人口」。都市に住む人々の多くは第2次産業、第3次産業に従事し、その一方で第1次産業に従事する人は農村に居住しているはず。都市人口率が高いすなわち農村人口率が低い国は、第2・3次産業が中心で第1次産業従業者率が低い。都市人口率が低いすなわち農村人口率が高い国は、第1次産業が中心でその割合が高い。以上より「都市人口率と第1次産業従業者率は反比例する関係にある」といえる。

さらに、所得の面から考えた場合、最も低所得が第1次産業、最も高所得が第3次産業。第1次産業に従事する者が多い国は全体の所得も下がり、逆に第1次産業が少ない、すなわち第2次や第3次が多い国は全体の所得も上がる。「所得水準=1人当たりGNI」であるので、第1次産業従業者率が高い国ほど1人当たりGNIは上がりにくい。「1人当たりGNIと第1次産業従業者率は反比例する関係にある」といえる。

以上の2つのセオリーを総合すると、このようにも言えるね。「都市人口率と1人当たりGNIは比例する」と。都市生活者の割合が高いほど、高賃金の職種に就いている人の割合も上がるということ。そのことが結果的に1人当たりGNIを押し上げる。

選択肢の4つ国の中で1人当たりGNIが低いのはインドとバングラデシュ、高いのがイタリアとカナダ。よって前者は①と③のいずれか、後者は②と④のいずれかに該当。インドとバングラについては、国の人口規模を考え、さすがにインドの人口最大都市に国の総人口の10%が集まっているとは考えにくい(総人口14億人に対して、一つの都市の人口が1億4千万人だなんて!)。①をインドと判定し、③がバングラとなる。

なお、②と③についても同様に総人口を意識して考えてみたらいいと思うよ。イタリアの人口は6000万人、カナダの人口は3500万人。仮に人口500万人の都市が両国にあったとしたら、その都市への集中の度合いはイタリアでは10%未満であるのに対し、カナダでは20%近くに達する。②をイタリア、④をカナダと考えよう。なお、イタリアの人口最大都市は首都のローマで300万人。総人口の5%ほど、カナダの最大都市は工業都市のトロントで550万人。15%を越えている。トロントは非常に重要な都市であるので、チェックしておこう。

【関連問題】(2016年度地理B追試験第3問問4)

各国の人口、「都市人口率」、「都市人口に占める最大都市の人口の割合」から、最大都市の人口を求める問題。カナダの総人口は3500万人、トロントは550万人。

【アフターアクション】1000万都市は覚えておきなさい。1000万という数字は巨大都市の目安であり、その数は限られている。

東アジア日本東京★

中国シャンハイ・ペキン★・チョンチン・

韓国ソウル★

・中国は大都市が多数みられるが、シャンハイとペキンさえ知っておけば十分。

・韓国は人口規模が大きくない(5000万人)であるのに、1000万都市があるという例外的な国。

東南アジアフィリピンマニラ(大都市圏)★

ベトナムホーチミン(700万人)

タイバンコク★

インドネシアジャカルタ★

・マニラは市域人口は少ないものの、都市圏全体では1000万人を越え、こちらの数字でセンター試験には出題されている。

・ベトナムは南北に大都市があるが、北のハノイ(首都)は南部のホーチミンの半分。

南アジアバングラデシュダッカ★

インドムンバイ・コルカタ・デリー★

パキスタンカラチ

・インドも中国と同様に大都市は多いが、西部のムンバイと東部のコルカタだけ確認しておこう。

西アジアトルコイスタンブール

・イスタンブールはかつての東ローマ帝国の都であるが、トルコにおいては建国時より内陸部のアンカラが首都であり、イスタンブールが首都だったことはない。

アフリカナイジェリアラゴス(800万人)

・ラゴスは将来的には世界最大の都市になると予想されている。

ヨーロッパイギリスロンドン★

フランスパリ(大都市圏)★

ロシアモスクワ★

・ドイツはベルリン、イタリアはローマ、スペインはマドリードだが、いずれも300万人程度。かつて小国家が林立した歴史があり、人口が分散している。

北アメリカアメリカ合衆国ニューヨーク

・カナダはトロント(550万人)。

中南アメリカメキシコメキシコシティ★

ブラジルサンパウロ・リオデジャネイロ(700万人)

アルゼンチンブエノスアイレス

・ペルーのリマやチリのサンティアゴも国の総人口に比して規模が大きい都市。プライメイトシティの多い地域である。

なお、オセアニアには巨大都市は存在せず、オーストラリアのシドニーが450万人、メルボルンが400万人。ニュージーランドは総人口ですら500万人程度。

【17】【インプレッション】北西側に海がみられるので、日本海側の都市だろうか。ただし、海に接しているとはいえ港は見当たらず、城下町として発展した都市のようだ。JR以外に私鉄の路線もあり、それなりに規模の大きな都市なのではないかな。

地形図問題の一種ではあるが、図が読み取りやすいのでさほど難しくないんじゃないかな。

【解法】簡単な図を用いた問題。本格的な地形図を用いた問題よりは解きやすいと思う。

文章を用いた問題だが、正誤判定問題というわけではなく、①から④の文章そのものはいずれも正しく、それがA〜Dのいずれかに該当するというもの。Aは広々とした街区を有する場所で、最近になって開発が進められた住宅地だろうか。Bは城跡に近く、古くからの武家屋敷などがあった地域なのかな。Cは駅前で、百貨店や商店街もみられるのかも知れない。Dは幹線道路に沿っている。おおまかにこんな特徴がそれぞれにはあると思う。

では文章を読み解いていく。深く読み取るのではなく、あくまでキーワードを拾っていく感覚で。

まず①については「1970年代以降」という新しい時期に「住宅」がつくられている。②は「江戸時代」の「城下町」であり「景観整備」が行われるほどの伝統的な街並みが残されているのだろう。③は「近代以降」で「商業施設や銀行」。近代とは明治時代のことで、①の1970年代に比べれば古いが、②の江戸時代よりは新しい。④は「自動車」や「ロードサイド」。

いずれもわかりやすいキーワードが並んでおり、判定は難しくないだろう。まず④がDなのは明白だろう。最近になって敷設されたと思われる幹線道路に沿っている。広い駐車場を備えた大型店舗(その多くは全国チェーンのはず)が並んでいる。

さらにBが②だろう。城跡に近接していることが最大のポイントだが、街路区画の形にも注目して欲しい。城下町では防御機能を高めるため、あえて見通しを悪いつくりにしている。至るところにみられる丁字路、北西側にみられる鉤(かぎ)型路など。

そしてCについては③と考える。日本に鉄道が敷設されたのは明治時代以降であり、駅前という立地を考え、C地域が開発されたのは「近代」であると見て間違いない。また、駅前周辺は交通の便がよく、多くの都市において官公庁や企業の事務所が集中し(CBD)、銀行も並ぶ。デパートや商店街が密集し、買回り品(高級品・耐久消費財)が売られ、広い範囲から客を集めている。

ただし、ここでは「閉店している店舗もある」という記述も気になる。モータリゼーション(自動車社会化)と郊外化(大規模商業施設が郊外の幹線道路沿いにつくられる)が進み、旧来の駅前商店街は客を集めることができなくなった。個人経営を中心とした多くの商店が閉店を余儀なくされ、いわゆる「シャッター通り」の増加が地方都市の深刻な課題となっている。

残ったAが①。余裕をもった街路区画がみられ、一戸建てを中心とした住宅地として開発された地域であることが想像される。一般的にこうした住宅地区は高度経済成長期以降に多くつくられた。いわゆるニュータウンである。

【関連問題】(2011年度地理B本試験第6問問4)

郊外の幹線道路に並ぶ巨大ショピングセンターが、今や日本のどの地域でも一般的なものになった。その一方で、市街地中心部には歴史的な街区を有する古くからの商業地区もあり、モータリゼーションの波から取り残されている。

【アフターアクション】良問だったと思う。AからDの4つの地点がそれぞれ都市における特徴的な地区を示し、特徴が明確である。

Aについては整然な街路区画がみられることを読み取る。道路が直交し、正方形や長方形に区画されており、計画的につくられたことが読み取られる。

住宅都市の街区パターンには2015年度地理B本試験第3問問3のAのような変わった形のものもみられるが、しかしいずれも一定の法則性に基づいてつくられており、やはり計画的なものであることがわかる。

Bについては古い街区なので道路が細く入り組んでいることに加え、城下町特有の街路パターンもみられることに注目しよう。

【18】【インプレッション】よくあるネタの問題だが、形式としては目新しいかな。日本国内の三つの地域が取り上げられているが、「都心部」、「郊外」、「都市圏外」に区別し、キャラクターを整理しないといけない。当然。人口ピラミッドも漫然と見るのではなく、具体的な箇所(年代・性別)を具体的な数値で解析していく。

【解法】いわゆる人口ピラミッドだが、国のものではなく、日本国内の市区のもの。国の人口ピラミッドならば、人口増加率および出生率を底辺と対応させて考えるのが必勝法だが、日本国内ならばより細かい読み取りが必須となる。

こうした問題ではまず文章を先に読んでしまうのがパターン。ただ、その前に本問では「都市圏」という概念が非常に大切になるので、あらかじめ確認しておこう。

都市圏とは都市の影響範囲のことで、行政上の境界とは無関係。人口や経済規模が大きな都市ならば巨大な都市圏を有し、逆に人口および経済規模が小さい都市の都市圏は極めて限定的なものとなる。都市圏は二重円によって表され、内側の円が示す「都心部」とそれを取り囲む「郊外」の組合せとなる。つまり「都市圏=都心部+郊外」である。

都市圏の具体的なイメージとして「都市圏=通勤圏」と考えよう。つまり「通勤圏=都心部+郊外」。都心部に官公庁や企業の事務所が集まり、郊外にはそこに通勤する人々が住居を構える。都市圏は商圏とも一致し、都心部に百貨店や買回り品を扱う店舗が立地し、買い物客が郊外から訪れる。

とくに人口が集まり経済活動が活発であるのが、三大都市圏である東京大都市圏、大阪大都市圏、名古屋大都市圏であるが、これに対し非大都市圏は農村のイメージで捉えればいいと思う。都心部に通勤できないので、仕事を求める若年層は近隣の大都市へと流出する。高齢者が取り残されることで過疎化が進行し、出生率の低下も生じ人口の自然減も生じる。時には限界集落と呼ばれる、極端に高齢化が進むことで社会生活を営むことが困難になった地域も現れている。

以上のことを踏まえ、XからZの文章を分析していこう。Xについては「都心」とあるが、もちろん「都心部」と同義と考えていい。オフィスや百貨店が集まる。Yは「郊外」。ニュータウンもみられ、新規に開発された住宅地には若年層が主に流入する。Zは「大都市圏の外側」なので「非大都市圏」であり、森林や農地が広がっている。一部には過疎化も進んでいる。

最も若いやすいのはシだろうか。例えば、65歳以上の年齢層を着色してみて。その割合を考えてみてもいい。極めて頭でっかちな人口ピラミッドであり、過疎化が進む地域であることがわかる。子どもの数も多くない。シがZに該当する。

さらにサとスだが、サは30〜40代にボリュームゾーンがあり、それ以外の分布傾向も比較的なだらか。これに対し、スは20代後半がボリュームゾーンで極端に子どもの数が少ない。例えば、郊外のニュータウンで子どもガ少ないなんていうことがあるだろうか。「戸建て」とも示されており、住民の多くが家族であることがわかる。例えば、開発されたばかりのニュータウンに転入してくるのは30代の若い夫婦(20代ではまだ家は買えないかな〜)として、そのうちのある程度の割合はすでに子どもをもうけていることが考えられる。ニュータウンで子どもが少ないとは考えにくいのだ。

その点、サが「郊外」であるとしっくりくる。開発されて10年程度のニュータウンだろうか。住民の多くは30〜40代であり、さらにその子どもである0〜4歳の年齢層も多い。高齢者の割合が低いのも、まさにニュータウンの特徴である。サをYと判定し、④が正解。

ではスはXだと言うのだろうか。文章と人口ピラミッドを対応させてみよう。ここでポイントになるのは、「オフィスビルや百貨店が立地」しているということ。都市部の中でもとくに中心に近い地域で、むしろCBD(中心業務地区)というべき場所だろう。高層ビルが林立するビジネス街、そして高級品を扱うデパートも並んでいる。そもそもそんなところに住民がいるのだろうか。最近は「都心への人口回帰」も進むが、それはタワーマンションなどあくまで住宅地として開発(再開発)されたところ。さすがにビジネス街の真ん中の人口(常住人口)が多いはずがない。この人口ピラミッドのポイントって、底辺の目盛りが「%」になっているところなんだよね。割合であり、実数ではない。「都心部」ではなく「都心」になっているのもポイント。本当に大都市のど真ん中のビジネス街なんだろうね。そもそもの人口が少なく、せいぜい企業勤めの単身者しか居住していない。

(ただ、意外にスは高齢者も少なくないんだよね。都心の古い住宅地に長く住んでいるお年寄りって感じなのかな)

【参考問題】(2010年度地理B本試験第5問問5)

似たような人口ピラミッドを用いた問題。この2010年の問題では現在入居が進む「ニュータウン」と、30年が経過した「オールドタウン」の対比が問われている。2018年の問題のサがその中間になる。③(2010年)→サ(2018年)→④(2010年)と3つの人口ピラミッドを並べてみて、新興住宅地において住民の高齢化が進む様子を目で捉えてほしい。

【アフターアクション】 いやぁ難しかった。この手の問題った簡単なパターンが多いんだが、本問はひとひねりもふたひねりもしてある。生半可な知識に頼ることができず、かなり考えないといけない。上質なクイズって感じ?

シがZっていうことはすぐにわかるんだが、他が難しい。Yの郊外がサとスのどっちかっていうことなんだけどね。一見すると「若者」が多いスが郊外の住宅地だと思えるんだが、子どもがあまりに少ないことに引っかかるんだわ。その当たりを不審と気づけば、あとは解答までスムーズにたどり着くんだけどね。細かい観察力を問う、素晴らしい問題でした。