2001年度地理A本試験解説

2001年地理A本試験

(カテゴリー1)2

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第1問 カナダ地誌。このような単独な国の地誌が問われるのは地理B地理A共通の傾向。

問1 写真判定。カナダの広い範囲は安定陸塊の大平原が広がっているが、X付近で国土を縦断するロッキー山脈は環太平洋造山帯に属する新期造山帯。ウにみられるような急峻な山岳が連なる。

Yは米国北部から連続する春小麦地帯。企業的穀物農業が行われ、見渡す限りの小麦畑が広がっている。イに該当。

消去法でアがZ。これはナイアガラの滝であろう。このように世界自然遺産が写真として問われることがしばしばある。オーストラリアのエアーズロックやグレートバリアリーフなど。注意しよう。

問2 Qは北極海沿岸の寒冷な地方。ツンドラ地帯ではないか。先住民族はイヌイット。近年は定住が進むものの、夏季はアザラシの毛皮などで作ったテント、冬季は氷を固めてつくったイグルーとよばれる住居に住み、狩猟・遊牧生活を営んでいる者もわずかではあるが存在する。

問題自体は容易だろう。4が正解。アザラシの牙やトナカイの角で作ったのだろうか。犬ぞりが造形されている。

1の木靴はオランダやベルギーのもの。2の金属の仮面はアステカやインカなど中南米でかつて栄えた文明の遺産。とくに銀細工は有名。3はどこのものだろうか。絹の生産は中国に集中しており、これも中国のものか。あるいはシルクロードで西方に絹が運ばれ、そこで作られたものか。

問3 1が正解。2は東南アジアを中心としたモンスーンアジアでみられる。強烈な湿気を防ぐため、風通しのいい構造にする。日干しレンガは雨に弱いので、乾燥地域特有のもの。北アフリカなど。4はどうでもいいが、中国の黄河上流にはこのように横穴を住居にする人々がいるのだそうだ。

問4 バンクーバーは太平洋岸の都市であり、アジアからの移民が多いと思われる。中国語使用人口割合の高いAが該当。

国土東部のケベック州はかつてフランスの支配におかれていたという歴史があり、現在でもフランスの影響が強い。フランス語が主に使用されている。Cがモントリオールである。

残ったBがトロント。

問5 1と2のグラフと、3と4のグラフの動きが対照的なのがおもしろい。かつては移民が多く、現在はそうでもないのは、ヨーロッパ人だろう。逆に現在移民が増加しているのが、東アジアとアフリカと思われる。現代の人口移動は経済原則で説明がつく。経済レベルの低い地域は人口が流出し、高い地域へと流入する。アジアやアフリカは発展途上地域であり、人口流出が多いと考える(多いとはいえ全体の人口からみればわずかであるが)。そのため、カナダへの移民も増加傾向にあるのではないか。

3と4の選択であるが、ここからは推理しないといけない。問4の問題でも指摘されているように、太平洋岸地域を中心にアジア系の人口は多い。中国系はじめとするアジア系の人々がカナダ社会の中に根を下ろし、次第に大きな存在となっていることが想像できよう。このことから、移民が多い3が東アジアであると考えられる。中国や韓国、そして日本(数は少ないだろうが)。単純に人口規模で考えても、アフリカ7億人に対し、東アジア地域はその倍の14億人いるのだから、移民も多くて当然であろう。

問6 非常に重要な問題。カナダの貿易はセンター試験で最もひんぱんに問われるテーマの一つである。

米国を中心としてカナダとメキシコとの間で結成されているNAFTA(北アメリカ自由貿易協定)。3か国の間で物の移動が自由に行われる。これにより、高賃金国の米国から、機械組立工業など労働集約型工業の工場が国外へと移動することが促された。部品を輸出、現地の安価な労働力で組立て、そして再び米国内に製品が持ち込まれる。メキシコには電気機械工場が、カナダへは自動車工場が進出した。

このことから現在ではカナダは世界的な自動車生産国に発展。人口のわりに、そしてGNPのわりに、自動車生産が多いのだが、それは米国の自動車工場が国内に進出しているということ。図参照。Dは自動車である。カナダ最大の輸出品目。

問7 ポーランドはあまりセンター試験には出題されない。しかし特徴の多い国なので今後は注意が必要。

ポーランドはヨーロッパ最大の石炭産出国であり、国内のエネルギー需要もほとんどが固体燃料すなわち石炭によってまかなわれている。発電においても石炭を用いる火力発電の割合が圧倒的。このことからキが火力であることがわかる。

クはカナダの豊かな自然を生かした水力が該当。カナダは水力発電のさかんな国である。

ただしこの表からわかるように、カナダの水力発電に頼る割合は60%程度。凍結する冬季には水力発電が行えないため、どうしても他の発電にも頼らなくてはいけない。スウェーデンもカナダとほぼ同様のパターン。

これに対し、国内需要のほとんどを水力によって満たしている国がある。ノルウェー、ブラジル、ニュージーランドはいずれも水力発電に頼る割合がほぼ100%。山がちの地形(ブラジルはアマゾン低地など平坦な北部では水力発電は行えないが、南部のブラジル高原地域では急流も多く、ダムが多く建設されている)、湿潤な気候、そして冬季温暖な気候など、水力発電が成り立つ条件がそろっている。

さらに実はこれが最も重要な要因だと思うのだが、これらの国々は全て人口密度が低い。面積のわりに人口が少ないのだ。人口が密集しすぎていれば水力だけでは間に合わない。人口がまばらだからこそ、水力だけで十分ということだ。

ちなみに日本は、火力:原子力:水力が「6:3:1」。かつては水力も多かったのだが、現在は原子力が高まっている。しかし逆にいえば10%は水力発電なわけで、たとえば人口が1200万人ならば100%水力だけでまかなえることになる。ノルウェーやニュージーランドの人口は500万人に満たない。

(参考)ポーランドの特徴。農業は混合農業。大陸氷河によって削られた土地なのでやせているのだが、そこにジャガイモとライ麦を輪作し、ブタの飼料としている。民族はスラブ系。スラブ系民族は東方正教徒が多い(ロシアなど)のだが、ポーランドはカトリック。現在のローマ法王はポーランド人。

 

第2問 第1問に続いて地誌。地理Aではラテンアメリカはよく出題されるが、地理Bでは少ない、要注意。

問1 赤道直下のマナウスは高温かつ気温年較差が少ない。降水量も全体的に多いと思われアが該当。グラフをみると、降水が多い月と少ない月でかなり大きな差があるようだが、雨の少ない8月の降水量でも50mmを超え、とくに乾燥するわけではない。

ペルー海流に面するリマは寒流の影響を受けるため、極端に降水量が少ない。イの乾燥したグラフがリマ。

ブエノスアイレスは日本のちょうど裏側。大陸の東岸に位置するという共通項もあり、日本とほぼ同じ気候がみられる。ウが該当。

問2 地理Bでも似たような問題がある。

低緯度の熱帯地域において標高差によって気候環境はどのように移り変わっていくか。最も高度の低いCでは高温で湿潤な気候がみられる。米などの栽培に適する。標高が上がるにつれ気温が下がり、その分だけ(空気中の水蒸気量が少なくなり、さらに蒸発作用が弱まることによって上昇気流の発生が抑えられる)降水量も少なくなっていく。1000mを超える高原はコーヒーの栽培にとくに適する。さらに標高の高い2000m以上の地域ではより冷涼な気候に適した作物が栽培される。小麦など。そしてかなり気温の低い高山地域では樹木の生育もみられず、草原地域となる。山頂付近までくると山岳氷河や万年雪のみられる寒冷な世界。

問3 X地点はアマゾン川流域。熱帯林が茂っていたところが開発されて、牧場などに変えられてしまった。写真でその様子が確認できるだろうか。75年の段階では密林が一面をおおっている。それに対し、86年は多くの筋のようなものがみられ、農地として区画整理されている様子がうかがえる。

問4 おもしろい問題。地理Bでこういった問題が欲しい。

農業の問題ではあるが、経済原則を考える。都市の近くは地価が高い。土地を有効に用いるため、より収益性の高い利用が必須となる。価格の高い野菜の栽培が行われる。これを園芸農業あるいは近郊農業という。とくに野菜は新鮮さが求められるため、都市の近くで栽培するということは輸送時間があまりかからないため利点が大きい。

酪農も園芸農業と似た傾向がある。牛乳も新鮮さが求められるのでこのように都市に近いところに成り立つ。

QとRの判定は難しい。カンで解いてしまってもいいが、一応セオリーを紹介しておく。

都市近郊に成立する園芸農業・酪農の外側に成り立つのは穀物農業。より広い面積を必要とし、野菜などに比べて新鮮さは必要とされない。収益性が低い(穀物の価格は安い)ので都市からやや離れたところに適する。

さらにその外側、最も都市から離れたところに成立するのは放牧。これは牛や羊の放牧にはとくに広大な牧草地の面積を必要とするからである。世界の代表的な放牧地としては、米国の西部やオーストラリアの内陸部がある。いずれも都市からは遠く離れているが、広大な牧草地を確保できる条件にある。

このことからQとPを考える。Qはウルグアイ川やラプラタ川を用いて生産物をモンテビデオまで運ぶことが容易となっている。これは都市との交流性を考え、穀物となる。

それに対しRはより広い面積となっており、非常に規模が大きい農業形態がみられるはず。これは放牧である。一面の牧場に牛などが放し飼いされているのだろう。

このように、都市近郊では集約的な農業が、遠く離れるにつれてだんだん粗放的になっていく様子がわかればいい。園芸農業は集約的、酪農はやや集約的、穀物(企業的穀物)は粗放的、放牧(企業的放牧)はきわめて粗放的。

(注意!)放牧と遊牧を勘違いしないように。遊牧は果てしないほど広大な土地で、牧草を求めて家畜を連れてさまようというもの。ホイットルセー農業区分の一つであり、乾燥地域や高山地域、寒冷地域など、非常に厳しい気候環境下でみられる。放牧とはホイットルセー農業区分でいえば、企業的放牧に当たり、一定の面積の牧場の中で、家畜が企業的に管理されながら飼育される。肉牛や毛羊など、商品価値の高い動物がみられる。これに対し、遊牧は自給的。人々の飢えや渇きをいやす。

問5 1;ジュートは穀物を入れる袋などに利用される繊維作物であるが、インド東部やバングラデシュなど高温多湿の低湿地での栽培に適する。2;絹の生産(つまり蚕の飼育)は中国に集中。シルクロードは中国のシルクを西方世界に運んだ通商の道である。4;問題文に「伝統的」と書かれている。化学繊維ということはないだろう。

以上より3が正解。この地域で遊牧されるリャマやアルパカの毛であろう。

問6 農産物統計。中国1位でポーランドでも生産が多い。カはジャガイモ(バレイショ)。米国1位中国2位の順位。キはトウモロコシ。アフリカのギニア湾岸の熱帯国で生産が多い。クはカカオ。

問7 ラテンアメリカ地域で広く信仰されているのはキリスト教のカトリック。スペインやポルトガルが植民地支配の過程でこの地に伝えたのだ。旧ポルトガル領のブラジルの宗教ももちろんカトリック。プロテスタントはアングロアメリカ(アングロとはイギリスの意味。かつてイギリスの支配下にあった米国とカナダのこと)に広まっている。

 

第3問 思考問題が多く、良問がそろっている。

問1 森林面積と森林面積率からその地域の面積が産出される。

1:457÷0.249≒1835(ha)

2;203÷0.466≒436

3;112÷0.313≒358

4;97÷0.098≒990

それぞれの面積から考えていこう。Dが最も広そうだ。米国とカナダの合計である。これが1だろう。1は森林面積も増加しており、これらの国で計画的な森林の伐採と管理が行われていることが推測される。

次に面積が大きいのはどこか。Bが広そうだ。もちろんこの世界地図は面積が正しく表されているかどうかわからないのだが、何となくそういう感じがする。どうやら4がBに該当しそうだ。森林面積は減少しているものの、2よりは小さい値となっている。この地域はもともと草原地帯であり、森林自体少ないのではないか。よってつじつまは合う。

AとCは面積に差はなさそうなので、ここはやはり森林面積の減少の度合に注目するべき。世界の森林で最も減少が問題となっているのは熱帯林である。温帯林や冷帯林は先進地域に分布していることが多く、比較的管理されている。このため(1の北米のように)増加傾向にあるところもある。それに対し、熱帯林は開発や無計画な伐採によりその面積を大きく減じていく。東南アジアは熱帯林の豊かな地域であるが、それだからこそ、森林の減少の度合が激しくなるのだ。とくに海岸部のマングローブ林がエビの養殖池に変えられてしまうという話題はしばしばセンター試験にも登場している。

これより2がC。東南アジアの熱帯林が激しく失われていく様子が明らか。残った3がヨーロッパ。むしろ森林は増加している。

問2 木材貿易に関する問題は実に多く出題されている。非常に重要。ただし本問は地理Aらしく知識問題になっている。

正解は2。インドネシアからは原木の輸出規制がなされている。このことは知識として知っておいてもいいだろう。

1はよくわからない。そもそも「木材需要が急増した」のだから、国内の森林がどうのこうのいう前に、木材の輸入量が増えるのは当たり前のことだろう。3もよくわからない。ただし問1をみてもわかるように、北米の森林は面積が増加しており、とくに枯渇を心配することもないのではないか。4は反対。パルプの原料として商業的価値の高い針葉樹の方が大きな割合を占めている。

問3 これは注意深く選択肢を読めば簡単だろう。マングローブは広葉樹である。

問4 まず表の意味を考えよう。日本においては、1人当たり4344の水が与えられる。このうち使用されるのは735。たとえば具体的にはこのように考えられるだろう。4344立方メートル分の雨が降ってきて、そのうち735立方メートルだけを使用する。余った水は蒸発あるいは海に流れ込んだりする。日本は豊かな降水に恵まれている国なのだ。

これに対し、Gはきわめておもしろい。雨の量は少ない。しかし使う水の量は多い。これっておかしくないか?おそらく人工的に水を作り出しているのだろう。水というより正確には淡水かな。海水を淡水化する事業を積極的に行っていると考えていいと思う。このようなことをする必要があるのはよほどの乾燥国、選択肢中ではサウジがこれに該当する。

ここまでは簡単。しかしEとFの判定は難しい。フィンランドと米国の間に際立った差異はあるのか。

米国が世界最大の無駄遣い国であることをヒントにしよう。1人当たりの消費エネルギーも大きいが、水の使用量も多いのではないか。重工業が発達し、工業用水の利用が多い。世界最大の農業国であり、農業用水も多い。都市が高度に発達しているが、そこで使用される生活用水も多いだろう。

このことからEをフィンランド、Fを米国と判断。

問5 1;人口は米国が最も多い。2;工業用水の方が多い。4;国土面積が最大なのは米国。

問6 1;誤り。世界の原油はOPEC(石油輸出国機構)を石油メジャーによって二分されている。国によって支配される原油と、企業によって管理される原油があるということ。

3;誤り。原油に依存する割合は低下しているものの、消費量自体は増加している。

4;誤り。OPECの加盟国は必ず知っておくこと。イギリスは加盟していない。イギリスの原油は企業(石油メジャー)によって支配されている。

以上より2が正解となる。オイルショック以前は原油の80%以上を中東からの輸入に頼っていた。オイルショック以降はインドネシアなど東南アジアなどからの輸入を増やした。しかし近年はアラブ世界の政治的安定により、再び中東からの輸入量が増加している。

問7 中国は世界一の石炭産出国であり、とくに固体エネルギーに依存する割合が高い。4が該当。

それ以外の国について。「フランス=原子力」である。原子力(「その他」)の割合が高い3がフランス。石油と天然ガスにほぼ100%頼っている2が世界的な原油産出国イラン。残った1がイギリス。

日本の特徴は、液体燃料(原油)に頼る割合が約50%であること。