2000年度地理A本試験解説

2000年地理A本試験

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第1問 問1・問2・問4・問5は地理A的で難しい。それ以外は良問。

問1 図法に関する問題は非常に珍しい。また、シンガポールやホンコン、シドニーなど外国の都市の位置を知っていることが解答への条件となる点も極めて異例。

図1は東京中心で描いた正距離方位図法。中心点(東京)からの方位が正しく表されていると同時に、中心と任意の一点との距離も正しい。

1;外周円は中心点の対せき点(地球の裏側)を表す。地球一周は4万キロなので、東京から外周円までの距離(つまりこの円の半径)は2万キロとなる。図中に3つ点線が描かれているが、これは東京からの距離が、5千キロ、1万キロ、1万5千キロの地点を表しているのだろう。シンガポールの位置はマレー半島の先端で、5千キロの円にほぼ沿っている。

2;経度で考えると、東京はシンガポールより東の方向にある。よって時間は東京の方が進んでいる。遅れてはいない。

3;東京とシンガポールを直線で結んでみよう。これが大圏コースで、最短経路を示す。たしかにホンコンの上空を通過しているようだ。ホンコンは中国南部の都市。

4;東京・シンガポール間の距離はほぼ5千キロ。東京・シドニーはそれよりはやや遠い。飛行時間もより多くかかるのではないか。シドニーはオーストラリア南東部の都市。

問2 地理A特有の問題。難しい。

アは竹を用いている。アジアの楽器だろうか。Fに該当すると思われる。これで選択肢は5と6に限定。

よってイの候補はBとC、ウはAとEにしぼられる。ここからはカンで解くしかない。

問3 民族構成ネタは地理Aが最も得意とするところだが、この程度のものは地理Bでも出題されるだろうから、この問題はマスターしておこう。

東南アジアで民族構成が話題になる国は2つ。マレーシアとシンガポール。

マレーシアは「6:3:1」という比率を知っておく。60%のマレー系住民、30%の中国系住民、10%のインド系住民(彼らはタミル系ともいう)から構成されている。最も裕福で都市を中心に商業にたずさわっているのが中国系住民。先住民であるマレー系住民は農村で経済的には恵まれない生活を送っている。インド系はその中間。マレー系住民を優遇するブミプトラ政策が施行されているのは有名な話。公用語はマレー語だけであるし、国の宗教としてイスラム教が重視されている。マレー系企業への積極的な融資が行われ、マレー系の学生へも奨学金が優先的に与えられる。国営企業や警察・軍隊の採用もマレー系のみ。もちろん国内の中国系やインド系住民からの反発は強い。

シンガポールは人口500万人に満たない小国であるが、人口のほとんど(75%)を中国系住民が占めている。ただしマレーシアとは対照的に公用語は中国語、タミル語、マレー語の他に英語も採用されている。そもそもシンガポールはマレーシアから分離独立した国であり、マレーシアの中の一つの都市シンガポール市がそのまま一つの国家になったようなものである。

問題参照。「6:3:1」という比率を探す。Qが該当。これがマレーシアだと思われる。キがマレー系、クが中国系、ケがインド系となる。

残ったカがタイ系であり、この割合が高いPがタイ。中国系の多いRがシンガポール。

問4 おもしろい問題ではあるが、地理Bではみられないパターン。

サは国旗に南十字星が描かれているので、この星座がよく観測できる南半球の国だろう。パプアニューギニアに該当。シに描かれているのはカンボジアの密林の中に眠る遺跡アンコールワット。世界文化遺産にも指定されている仏教寺院(一部にヒンドゥー教の様式も含む)。センター試験では世界自然遺産はしばしば問われているが、このような文化遺産については本問のみ。地理A特有のものである。スは消去法によりマレーシア。国旗に描かれている月と星はイスラム教の象徴。

問5 ここまで難しい問題は地理Bでは出ないだろう。02B本第2問問4と比べてみるといい。

写真1はイスラム教の寺院。ドーム状の屋根とその周囲にそびえる複数の尖塔(ミナレット)からなるこのような建物をモスクという。センター試験ではさまざまなモスクの写真が登場しているので、それらも参考にしてみよう。いずれもドーム屋根と尖塔に特徴がある。

1;イスラム教聖地メッカにあるカーバ神殿内部の写真。中央の石板をかこんで無数のイスラム教徒が集まっている。

2;ヒンドゥー教寺院。多層形式の建物。テラスが特徴。

3;チベット高原のラサにあるポタラ宮殿。チベット仏教(ラマ教)の聖地である。

4;イギリス国教会(キリスト教プロテスタント)のウエストミンスター寺院。

問6 極めて重要。統計要覧でマレーシアのテレビの生産と輸出については必ずチェックしておくこと。90年代初頭とくに東南アジア地域への工場進出がさかんとなった。主にマレーシアに、日本のメーカーによるテレビの組立工場が多くつくられた。パナソニックなど。もちろん現地の低賃金労働力の利用を目的として。

近年はさらに低賃金を求めて、マレーシアを離れて、タイ、そして中国へと移転する工場も多いものの、「マレーシア=テレビ」という公式は頭に叩き込んでおく。

問7 熱帯材の貿易に関する問題は過去に地理Aで出題されている。その際に取り上げられた統計をチェックしておけば、日本がその最大の輸入国であることがわかるはず。過去問の研究が命ということ。

木材の貿易に関する問題は多いので、過去問で十分に研究しておくこと。

 

第2問 地形図問題が中心。問1のような計算問題は地理Bでも頻出なので重要。問2は地形図を読解するというより、「扇状地の湧水帯はその末端である」という地形自体の特徴を問うものであり、これは地理B的ではない。それに対し、問3はそのまま地形図を読み取る問題なので。地理Bの問題としても通用する。残りは、問6があいまいで難である以外は、良い問題といえる。

問1 「愛本を扇頂とし、石田から泊までの海岸線を扇端とする」のだから、愛本~石田(あるいは愛本~泊)間の距離を半径とする円を想定し、泊~愛本~石田の成す角がほぼ90°に近いことを利用して計算する。1センチ間隔に記された目盛りと、リード文中にある縮尺の説明がヒントとなる。

問2 「扇状地の湧水」という書かれ方をしている。扇状地においては、扇央は乏水地となり、扇端が湧水帯となる。山地から平野に出るところに、礫(小石)や目の粗い砂が堆積してできた地形が扇状地であるが、原則として、扇頂で河川水は地下にもぐり、それが再び地上に顔を出すのは扇状地の末端(扇端のこと)である。扇頂と扇端にはさまれた扇央においては、川の流れは水無し川となり、実際の河川水は伏流している。

このことより、図において扇端を探せばいい。問1の問題文にもあるように、それは石田や泊である。

問3 1;「散村」とは文字通り家屋が散らばっている様子を表し、集村の反対。図の広い範囲にわたって、小さな四角(1つの場合もあるし、数個集まっていることもある)が分散している。これらは「散村」。一つ一つの四角が実際の建物を表し、これが数個固まっているものは母屋と離れという感じなのだろう。航空写真を想像してみるといい。それぞれの建物の配置や形まで、手に取るように見えることだろう。

ちなみに街村というのは集村の一種で、道路に沿って家屋が列状に連なり、それが一つの街として機能を持っている場合。図2においては右下の舟見から南に連なる家屋の列。寺や神社の他、郵便局や交番などもみられ、地域の中心的役割を果たしていることがわかる。

2;工業団地というからには工場が複数集まっているのだろう。図の南東端に工場の地図記号がみえる。しかしさほど大規模なものとは思えず、これを「団地」というのはいささか無理があるだろう。

3;「崖の高低差」に注目。A付近を南北に走る斜面の印(ケバケバ線のようなもの)が確認できるだろうか。この右側には「106.2」の標高を示す三角点があり、左側には「80」メートルの等高線がある。このことより、この斜面の印の東西でかなり高度に差があり、ここに見られる発電所はこの高度差を生かしているのではないかという想像ができる。

4;ほぼ全域にわたって水田の土地利用記号がみられる。これだけあれば「卓越」以外の何者でもない。

問4 図2中で家屋の周りがグレーに塗られている。これが屋敷林(屋敷林)を表す。

Xは沖縄島。石垣に特徴がある。熱帯低気圧などによる強風に耐える。Yは北海道の根釧台地。パイロットファーム(実験農場)。残ったZが群馬県。

問5 家屋の南西側に高木がある。この方向からの風を防ぐ。

問6 森林には地下水を涵養(養う)するはたらきがある。日陰ができることにより地上からの蒸発が防がれ、また根が水分を蓄えることにより適度な湿り気が土壌中に保たれる。

ただし屋敷林は規模も小さくそこまでの作用は期待できない。またここは扇状地であり水はけが良いので、樹木の存在に関係なく水分はさらに深い地下まで浸透してしまい、井戸など掘って利用することは難しい。地下水の涵養が目的とはならないだろう。

問7 木材の貿易に関連する問題。現在の日本の木材需要は、半分以上が輸入材によるもの。国内材は半分に満たない。

 

第3問 スタイルとしては98B本第3問に似ているのだが、こちらの方がよほど地理B的で問題も洗練されている。

問1 この問題に限っては地名の知識が問われるので地理A的。

AからEの文に記された場所や行程を明らかにしよう。A「イエメン(アラビア半島南部)」、B「ウクライナからロシア南部」、C「スマトラ島」、D「中国北部」、E「ダマスカス」。

では各選択肢参照。ア→イは北アフリカ。AからEにそれらしきものがあるか。保留。ウ→エはアラビア半島からアフリカ東岸を経て、再びアラビア半島に戻ってくる。Aの「アラビア半島南部」がこれに当てはまる。オ→カはヨーロッパから中央アジアを経て、南アジアへ。黒海北岸にはウクライナという国がある。Bに該当。キ→クは中国。これはDだろう。

よって解答は1。

問2 アビシニアとはエチオピアのことであるらしい。地名が分からなくても、Aの文章の中にヒントがある。「毎日午後になると降雨がある」と書かれている。これはどのような雨だろうか。日本では夕立とよばれる雨である。暑い日は上昇気流のはたらきが活発であり、日中に積乱雲が生じる。それが十分成長した夕方になると、一気に猛烈な雨が地面を叩く。これが夕立。雨はすぐに止み、晴れた空が顔をのぞかせる。

このような降水を対流性降雨という。低緯度の熱帯地域でみられるスコールが例。赤道付近は太陽エネルギーを多く受け取るため上昇気流の作用が活発であり、赤道低圧帯という不安定な空気の帯がつくられる。この支配下にある地帯では、毎日のようにスコールに見舞われるのだ。

このことから3を正解にする。「季節的な移動」とは、赤道低圧帯が、7月を中心とする時期は北半球側に北上し、1月を中心とする時期には南半球側に南下することを表している。太陽の回帰によって、地球表面で太陽エネルギーの集中する緯度帯が季節によって移動するからである。7月は北半球側が夏となり、1月には南半球側が夏となる。

この赤道低圧帯の季節的な移動によって、北緯10°くらいに位置するエチオピアやアラビア半島南部などは、7月(北半球の夏、つまり「大暑の候」)を中心とした時期に赤道低圧帯の支配下に入り、降水が集中する。これに対し、1月を中心とした時期は南下してくる中緯度高圧帯の支配下に入るため、下降気流が卓越し、雲が生じない。夏以外の降水量は少ない。

1;偏西風帯が影響を与える範囲は、せいぜい緯度30~60°の間くらい。

2;インド洋で発生する熱帯低気圧はサイクロン。夏の気温が高い時期にのみ生じるものであり、とくにアラビア半島南部やインドでは被害が大きそうだ。しかしこれは「毎日午後になると降雨がある」という条件とは合致しない。巨大な移動性低気圧による降水なのだから、毎日あるわけがない。

4;寒帯前線は高緯度低圧帯ともいう。偏西風帯の北に沿って位置し、このような低緯度地域とは関係ない。

問3 こういった農産物の問題については主食となる穀物に注目するのがいい。食べ物は人口に比例する傾向がある。

小麦がポイント。中国は小麦の生産が世界1位なので、この表中でも最大の数値を示す2が該当。インドは小麦2位。よって1が該当。

ウクライナとモンゴルであるが、人口についてのイメージはあるだろうか。草原の国モンゴルは人口過疎国(人口密度は2人/平方キロ)の代表的な例であり、さほど人口が多いとは思えない。一方、ウクライナはチェルノーゼムが広がる豊かな穀倉であり、人口も多く(実際は5000万人程度)そして小麦の生産も多いイメージを持つことができよう(チェルノーゼムに関する問題はセンターでいくつか出題されている)。よって3をウクライナとする。

牛や豚のデータはどうでもいいが、一応コメントを付け足しておこう。牛の頭数が最も多いのはインド。豚の頭数が最も多いのは中国。それぞれ世界1位である。インドでは牛は聖なる動物とされているが、食用にはされないものの、牛乳は有効に利用されている。中国で牛乳が少ないが、このように東・東南アジアでは伝統的に牛乳を飲む習慣がない。農耕使役用の牛が多い。ウクライナでは牛の頭数に比べ牛乳が多い。ヨーロッパ的な食習慣。モンゴルも牛乳が比較的多い。遊牧生活によって動物の乳を貴重なタンパク源とする生活習慣が養われた。

問4 スマトラ島とはどこだろうか。インドネシアでマレー半島と平行に走る細長い島がスマトラである。しかしこれを知らなくとも問題自体は解ける。

1;フェーンとはフェーン現象という言葉で使用される。この現象は、山地から乾燥した風が吹き降ろす際に、その気温が大きく上昇し、山ろくの町に異常高温をもたらすもの。フェーン現象とはもともとはアルプス山脈北麓でみられた固有の現象であったが、現在では世界中の似たような現象全てを指す。日本でも夏に日本海側や盆地などで異常高温を記録することがあるが、これもフェーン現象によるもの。

2;偏西風は惑星風であるので、強くなったり弱くなったりするものではない。

4;貿易風も惑星風。風の強さは変化しない。

以上より3が該当。モンスーンとは季節風のことで、夏季と冬季とで風向が逆転する。7月になると、スマトラというところから中国に行くのに都合のいい風向になるのだろう。

問5 中国北部では栽培されないものを考える。米は中国の南半分の地域で栽培されるもの。

問6 1;たしかに都市は城壁によって囲まれている。これが外敵から防衛するためにつくられたかどうかはわからないが。

2;モスクの位置を確認。とくに放射状に街路は延びていないようだが。

3;たしかに枝状に細かい街路が多くみられる。

4;駅の北東の街路は、道幅も広く、比較的整然としているようだ。それに対し、モスク周辺は細かい街路が入り組んでおり迷路の様。これは古い時代につくられたものである。

問7 家屋の形状。低緯度の乾燥地域の家屋は窓が小さくつくられているという特徴がある。暑い外気が入ってくるのを防ぐ。湿度が低いので風通しが悪くても蒸し暑くない。

1;サハラ砂漠は高原などもあり、そのふもとには水が湧いていたりして、交易路が発達していた。かつての主産物は岩塩。

2;このような農業をオアシス農業という。

3;オアシス農業によってさまざまな作物がつくられる。