1998年度地理A本試験解説

1998年地理A本試験

(カテゴリー1)4・5・6・7・8・16

(カテゴリー2)1・2・3・11・12

(カテゴリー3)9・15・19

(カテゴリー4)10・13・14・17・18・20・21・22

 

第1問 地理Aの典型的な問題だが、さほど難易度は高くないので、十分チャレンジする価値はある。ただし、パンパについての出題は地理Bでは皆無。

問1 意外な難問かもしれないが、これくらいは感覚的に解いてほしい。

1;北ヨーロッパ平原を中心とするヨーロッパ中部では広い範囲で混合農業がみられる。飼料作物と家畜の飼育を有機的に結びつけた農業形態。ベルギーもその範囲に含まれていると考えていいだろう。

2;ヨーロッパの平野部においては河川交通がさかんで、その河川を結ぶ運河ももちろん交通路として重要。

3;オランダを中心にみられる風車は干拓地からの排水をはじめとするさまざまな動力源として用いられていたもので、もともと風力発電用ではない。これを使って発電するというのはちょっと考えにくいのではないか。

3;ベルギーでは主にカトリックの教会がみられるが、このような塔を構えるものも多いだろう。

問2 ヨーロッパ中部でみられる混合農業は、ライ麦とジャガイモの輪作とブタの飼育に特徴がある。ベルギーにおいてもライ麦がさかんに栽培され、それがパンの材料となっていることは十分に想像できる。

1;マントウは中国華北平原の料理。小麦が材料。

2;ワインの原料となるブドウの栽培限界を考える。パリ盆地付近がブドウが栽培可能である北の限界であり、ベルギーは微妙なところだろうか。全くブドウがつくられていないともいえないかもしれないが、あまりさかんでないことは確かであろう。

3.トウモロコシの栽培限界はブドウよりもさらに南側で、ベルギーでは栽培不可能。

問3 ベルギーの位置を知っていれば解答は容易だろう。いずれにせよ、多言語国家の代表例としてしばしばベルギーは取り上げられるのでチェックしておくべき。

1はスイス西部の状況だろうか。2はイギリスのウェールズ地方とスコットランド地方。3はスロバキアという国。

問4 平原を通って、北に向かう。4が該当。平原とはアルゼンチン東部に広がるパンパのことだろう。

問4 パンパはパンパ土という肥沃な土壌の広がる豊かな農業地帯である。ウルグアイ・アルゼンチン国境付近の湿潤パンパと、それより西方の乾燥パンパに分けられる。湿潤パンパは降水に恵まれさまざまな農業が成立。ウルグアイでは米の栽培がみられ、その西ではトウモロコシ、そして乾燥パンパとの境界付近は大規模な小麦地帯となっている。また各地に牧場がひらかれ、そこでは牧草としてアルファルファが栽培、主に牛が放牧されている。ウルグアイ、アルゼンチンともに牛肉の輸出国でもある。

それに対し、湿潤パンパの西に連なる草原地帯ではやや降水が少なく、こちらは乾燥パンパとよばれている。乏しい水分と粗食に耐える羊が主に放牧されている。

問6 1;アルパカはアンデス高原特有。

2;南十字星は天の南極方向に位置し、南半球で観測される。北半球でも低緯度地域では見ることができるが、イタリア(北緯40°くらい)ではどうだろうか。

3;サンバはブラジルの音楽。

4;アルプス山脈もアンデス山脈も新期造山帯。

問7 難しい。ガウチョとはアルゼンチンの牧童。広大な牧場で牛などの家畜を管理する。アルゼンチンは白人の国なので、ガウチョもやはりヨーロッパ系の顔立ちをしているはず。

1;これは北米のアメリカインディアン。黄色人種。2;これがガウチョだろう。3;モンゴルの遊牧風景。背後にテント式住居のゲルがみられる。4;これは何だろう?ヨーロッパのパレードだろうか。よくわからないが、古い時代の騎兵隊の服装をしているようだ。

 

第2問 農業に関する問題は地理B的な良問。

問1 地理Bではこのような時差に関する問題は出題されない。

地球は、24時間かけて360°回転する。つまり1時間で15°ということ。東へ行くほど時刻は進み、西に行くほど遅くなる。

シンガポールでは東経120°の標準時が採用されている。世界標準時であるロンドン(緯度0°)に比べて8時間進んでいるということになる。これに対し、ヨハネスバーグは東経30°でロンドンより2時間早い。シンガポールとヨハネスバーグの時差は差し引き7時間になる。

シンガポールの午前1時は、ヨハネスバーグの前日18時。この時刻に出発した飛行機が、ヨハネスバーグの6時に到着する。その差から所要時間を求める。

問2 1;山地の周辺は白人の居住地域になっている。

面積としては白人地区が最大であるが、人口でみたらおそらく黒人やインド人などの方が多く、白人は少数派だろう。白人は広い豪華な邸宅に住み、黒人たちはスラムの狭い住居に押し込められるように暮らしているということ。

問3 地中海性気候が現れる地点は頻出。夏季乾燥する気候に耐える樹木栽培に特徴があり、代表的作物はブドウ。

問4 なかなか難しいのだが、考えながら解いてみよう。

大都市の数が圧倒的に多い4が人口大国インドであろう。

都市人口の年平均増加率が低い1が先進国フランスだろう。都市人口の増加率が低いということは、国全体の人口増加率も決して高くないと思われるので。

2と4は難解。首都プレトリア以外にもケープタウンやヨハネスバーグなど有名な都市がある南アフリカ共和国が、大都市が複数存在している2と考える。逆にケニアには首都ナイロビしか有名な都市はない。

2を南アフリカ、3をケニアと考えて不都合な点はあるか。都市人口割合は2の方が高い。一般的にいって、成熟した社会をもっている先進国であるほど都市人口割合は高くなる。南アフリカは先進国とはいえないが、白人に支配された国でもあり、各種鉱産資源も豊かな国であるだけに、ケニアよりは経済レベルの高い国と考えられる。逆にケニアではまだまだ社会は成熟せず、経済レベルも低い。

都市人口の年平均増加率は3の方が高い。経済的に恵まれない発展途上国の方が、先進国にくらべて、地方から都市への人口流動が激しい傾向がある。地方では生活が成り立たず、飢えから逃げるために、雇用がありそうな都市へと労働者とその家族が殺到するのだ。ケニアの方が南アフリカよりも経済レベルは低いと思われる。より立ち遅れた発展途上国なのだ。よって、農村からの人口流出と、都市への人口流入がとくに激しい3がケニアであると考えて、矛盾はない。

問5 ケニアはかつてイギリスの植民地だった。プランテーションにはイギリス人が愛飲する茶が植えられている。

問6 新大陸原産の作物は知っておくべき。トウモロコシ・トウモロコシ・カカオ・イモ3種(ジャガイモ・サツマイモ・キャッサバ)など。

新大陸とは南北アメリカとオーストラリアのことだが、上記の6つの作物については、新大陸のうちでもとくに中央・南アメリカに原産地が集中している。

稲の原産地は中国とインドの国境付近といわれている。小麦の原産地は西アジアのイラン。タロイモの原産地は不明。

問7 熱帯地域では獣の飼育はみられない。湿った密林は寄生虫や雑菌だらけで、4本足の動物は生息できない。また日干しレンガは乾かしただけで焼いていないので、雨が降ったら溶けてしまう。熱帯のような湿潤な地域には適さない。

 

第3問 食料問題というテーマ自体は地理A的であるが、農業に関する問題が多く、地理B的でもある。

問1 日本の人口は1.25億人。計算する。

問2 地理A的な問題。農業関連企業ということでアグリビジネスを選ぶ。

コンビナートは旧ソ連の工業地域。ソフホーズも旧ソ連。国営農場のこと。ファゼンダはブラジルの大農場。

問3 生産量に注目するのがいいだろう。米の生産はアジアに集中。世界全体の米の90%以上はアジアでつくられている。

国別でみると、人口が多い国で栽培がさかんという傾向がはっきりしている。米は自給的な作物であるので、栽培地域=消費地域となるのだ。これにより、人口が多い国でこそ米をたくさんつくる必要があるのだということがはっきりする。いや、むしろ米をたくさんつくることができる国だからこそ、多くの人口が住むことができるということだろうか。米が人口を支えているのだ。

以上より、米の生産に関しては「アジアの人口大国で多い」という公式が成り立つ。

表1参照。生産最大の4が人口最大中国。それに次ぐ生産の5がインド。

1・2・3の判定はやや難しいのでここからは輸出量に注目しよう。米の輸出については1位の国だけ知っておく。タイである。人口規模(6000万人)のわりに生産量が多く、輸出にまわせる米の量が多い。自給的な栽培に特徴があるアジアの米作であるが、タイにおいてはむしろ商業的に行われていると考えていいだろう。このことから1がタイとなる。

生産量が少ない2はアジアの国ではないだろうから米国。しかもこの国は生産の1/3を輸出に当てるなど、完全な商業的米作が成立している。商業性がとくに高い農業がみられるのは新大陸である。

3がベトナム。人口も少なくなく(8000万人)、生産もそれなりに多い。

問4 このような食生活に関する問題は地理A的だが、近年地理Bでも目立ってきたので確実に解こう。

「西洋化が進むほど、食生活は肉中心となる」という公式がある。日本人に比べ米国人は圧倒的な量の肉を食べる。日本人はむしろ魚が多い。

図2参照。この中には肉の項目はないが、それに類するものとして「牛乳・乳製品」に注目しよう。これも肉と同様、西洋化した食卓で広くみられるものである。

これの値が大きい2が米国であろう。他の3カ国(中国・日本・モンゴル)はいずれもアジアの国なので判別は難しい。

ここでモンゴルの生活文化について考えてみよう。現在はさほど多くはないのかもしれないが、遊牧による生活文化が現代人の生活にも大きな影響を及ぼしていると考えられる。遊牧は草を求めて、土地から土地へと転々と移動を続けるのだから、定住して、作物を栽培するということはほとんどできない。野菜のような一年草であっても、その栽培は一般的ではないのではないか。またモンゴルは冷涼な気候であるので、野菜の種類も限られ、それだけに食卓に野菜が上るのは稀なことだと思われる。「野菜・豆類」の少ない1がモンゴルに該当。「牛乳・乳製品」が比較的多いが、これは西洋からの影響ではなく、遊牧生活以来の食習慣に由来するものであろう。

残りは1と4である。日本と中国のいずれか。ここからはある程度カンに頼るしかない。3と4の決定的な違いは「牛乳・乳製品」である。若干ではあるが食の西洋化が進む日本で、4ほど牛乳・乳製品が少ないとは考えられず、3が該当する。残った4が中国。穀物が多いが、米、小麦、トウモロコシ、そしてさまざまな穀物の世界的な生産国なので納得だろう。牛乳・乳製品が少ないが、中国で一般的にみられる家畜は豚であり、牛はあまり飼われていないことを考える。

問5 新大陸の農業の特徴の一つとして、農業経営の「企業化」がある。アジアなどでは農業は「家族中心の零細経営的」に行われる。小規模で手作業中心で行われ、それだけに農民の数も多くなる。企業的農業はその反対で、大規模機械化が進み、徹底的な省力化によって、農業従事者の数は少なくてすむ。労働コストが抑えられるので、このような新大陸産の作物は価格も抑えることができる。わが国においても、国内産の米は値段が高く、米国からの輸入米は安い(ただし米国の米は、品質や安全性の面において信用されないので、人気はないのだが)。

このことから4が誤り。「生産費がきわめて安い」「輸出量は増加している」と改める。

1;端境期とは、ある作物の収穫されない時期のこと。作物が一気に市場に出荷され低価格で取り引きされてしまうことを防ぐために、収穫時期をずらず工夫はさまざまな作物についてされている。宮崎県や高知県の温暖な地域でのビニルハウスを利用した野菜の促成栽培はその代表的な例である。世界規模でみると、小麦が代表例だろうか。南半球の小麦の出荷時期は11月から1月にかけて。北半球で小麦がとれる時期とはずれている。

2;わが国の食品の主な輸入先は米国である。穀物、肉類、果実など。しかし野菜については、保存が困難であり、新鮮さが求められることもあり、近隣の中国からの輸入がとくに多い。新鮮さが求められるという野菜栽培の必須要因は、都市の近くで野菜が栽培されやすいということの理由にもなっている。

3;バナナの主な輸入先は、台湾→南米エクアドル→フィリピンと移動した。これは労働者の賃金水準(1人当たりGNP)を合わせて考えてみるとわかりやすい。かつてバナナが高級品だったころは高賃金国台湾で生産されたものが中心。それがより賃金の安いエクアドルに移り、現在ではさらに経済レベルの低いフィリピン産のものが中心となった。

問6 1;よくわからない。保留。

2;植民地時代にプランテーションがひらかれ、そこで商品作物の栽培が強制された。独立後の現在でも、プランテーション作物の生産と輸出に頼りきった経済体制を続ける国がある。モノカルチャー経済である。このように商品作物の栽培を優先するため自給作物の生産が追いつかない。コーヒーやカカオ、ラッカセイを輸出し、小麦などを輸入するといういびつな構造になっている。

3;「緑の革命」の効果が最も大きかった国の一つであるインドでは、米の輸入国から輸出国に転化した。このように多くの国で食料の増産に成功した。その反面、利益は富裕層に集まり、貧しい者はさらに貧しくなるという、貧富の差の拡大が生じるという弊害は生じた。

4;このようなことは必要だろう。正論であると思う。

5;食料生産もままならない発展途上国においては前述のようにプランテーション作物の生産が優先され、穀物は輸入に頼るという現状がある。家畜についてはどうだろうか。発展途上国では、家畜の多くは遊牧で飼育されており、それらの動物は草を食料とするので、穀物を飼料とするわけではない。熱帯ではそもそも家畜のほとんどいない国もある。このことより「国内で生産される穀物のほとんどが家畜の飼料に用いられている」という部分が誤りと考えられる。