2003年度地理B本試験[第3問]解説

2003年地理B本試 [第3問]

第3問 センター試験史上最悪の大問。どうしてこんな問題が実際に出題されることになったのかが不明。誰かセンター試験を知らない素人が気まぐれで作ってしまったのかもしれないが、それにしてもノーチェックで世に出ることはないだろう。誰か一人がダメ出ししさえすれば、それだけでこんな悪問は闇へと葬り去られ、とんだ恥さらしとなることはなかったはずである。いったいどうした、センター問題作成委員会!?

まあこんなしょうもない問題を作ったド素人は、責任を取って切腹するべき(怒)。生徒は命がけで受験しているのだから、センター試験をお気楽な遊びで作ってもらったらマジ困る。

とにかく今までのセンター試験から問題のパターンが逸脱している。ダメ出しをしていこう。問1はハイサーグラフが不適切。新課程になってハイサーグラフが用いられたことは一回もない!教科書や模試、私大の問題ではしばしば見るものではあるが、新課程導入後のセンター試験で全く使用されていないものをなぜここで出す?旧課程であってもそれほど頻繁に用いられていたものではない。

問2は農業であるが、これもおかしい。センター試験の農業に関する問題は基本的にホイットルセー農業区分によるもの。03年度ならば第2問問5を参照されたし。これが典型的なセンター地理の農業の設問。「混合農業」や「企業的穀物農業」の特徴が明確であり、解答しやすい。さらに「トウモロコシ」「豚」「綿花」など、そこで見られる農畜産物の名称がはっきり示されており、このようにホイットルセー農業区分とそれぞれの農業区での主生産物とをヒントとして解答させる問題こそがセンターの農業問題の典型的なパターン。それなのに第3問問2は異なる。これって答えは4なんでしょ?この選択肢なんて、農作物は書かれていないし、農業区分もわからんし、ぜんぜん問題として成立しない。

問3はまだマシか。難しいことには変わらないけどね。せめてバングラデシュを聞いてくれ。

問4以降もわけのわからない問題が並ぶ。かつての悪問の代表といえば01B本第2問があったが、問題の質とレベルにおいてはそれをはるかに越える意味不明さ。全7問のうち、3~4問当たったら御の字というところだろう。

というわけでこの大問の解説はグチとイチャモンだらけになるが、どうか我慢して読んでほしい。とにかく僕はそれだけ怒っているということなのだ。

 

第1問 いきなりハイサーグラフの出題。模試なんかでは定番のグラフ形式であるだけに、意外と思われるかもしれないが実はセンター試験では新課程導入後は初のお目見え。旧課程時代にさかのぼっても2回しかない。ともに追試(95追第1問問1、96追第1問問1)であり、そのうえともに容易な問題であった。共通一次までさかのぼるとやや難しい問題もあるのだが。

とにかくハイサーグラフについてはその存在すらセンター試験では全く無視されているものであったはずなのに、なぜここで取り上げられているのだろうか。出題者が愚かだったとしか言いようがない。

文句ばかり言っているとキリがないので問題に移ろう。上記のようにハイサーグラフはセンター試験では登場しないものの、模擬試験では頻出であるのでその読み方ぐらいはわかるのでは。

縦軸に気温をとり(上に行くほど気温が高い)、横軸に降水量をとる(右に行くほど降水量が多い)。グラフ中の多角形の頂点をなす数字はそれぞれ1月から12月までの月を表す。例えばAに注目してみよう。1の数字を探してほしい。かなり左に寄った位置にある。これは、1月の平均気温が約18℃、月間降水量がほぼ0ミリであることを表している。この要領で全ての点についてみていけばいい。

ここで注意してほしいのは、グラフの形を大まかにとらえて、それだけで判定しないこと。あくまで、各点(つまり各月ということ)について具体的な気温と降水量の数値をとらえて、ていねいにみていくことが、面倒かもしれないがグラフを正確に読み取るコツ。

例えばこのグラフを表に直してみるなんていうのもいいかもしれない。

Aについて。

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

気温 17 21 24 28 30 32  30 28 28 27  24  18

降水量 0  0  0  0  0 10 100 80 10  0   0   0

Bについて。

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

気温 24 26 28 31 33 32 31 29 28 27 26 25

降水量20 0 0 10 20 40 120 160 150 300 400 180

Cについて。

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

気温 25 25 27 28 30 30 28 27 27 28 27 26

降水量 0 0 0 0 10 600 700 500 300 50 10 0

こんなふうに表の形に直してみるといいと思う。時間はかかるけれどこれくらいは仕方ないんじゃないかな。

では図1のインドを参照しながら、それぞれの表がどの都市の気候を表したものなのか考えていこう。

ムンバイに注目。この都市はインドにおいて最も有名な都市でもある。センター試験でも何回か登場。

ただし本問については、ムンバイという都市にこだわるのではなく、南アジア地域の季節風の風向を考え、それがムンバイを含むインド半島南西岸の地域にどのような影響を及ぼしているのかを検討していかないといけない。

南アジアの季節風はセンター試験最重要ポイントの一つ。02B本第2問問2参照。ここでの正解は3なのだが、パキスタンからバングラデシュにかけての南アジア全体は、夏季に南西からの季節風が卓越する。00B本第2問問3参照。7月(夏季)の風向を示しているのはアなのだが、ここでも南アジアは夏季に南西からの季節風におおわれることがポイントとなっている。99B追第1問問2選択肢1参照。ここではバングラデシュの地図が示されている。南西モンスーンが発達する時季にとくに降水量が多いと述べられている。モンスーンとは季節風のこと。夏季には国土の広い範囲が洪水の被害にみまわれるほどの巨大な降水がある。98B追第5問問7選択肢3参照。この島はスリランカ。インドの南方に浮かぶ島であり、季節風の影響も同様に受ける。南アジアのモンスーン地帯にあり、夏季の南西モンスーンの影響でとくに島の南西部で降水が多い。冬季は北西からモンスーンが吹くが、これは主に大陸から吹き降ろす風であり、季節的にもあまり気温が高くない(気温が高い方がより多くの水蒸気を含み、湿潤な気候をもたらしやすい)と思われるので、島の北西部では年間合計の降水量も少ない。

さらにムンバイを含む地域について直接取り上げられている問題を挙げよう。93本第1問問6。Kに注目。ここは夏季に南西からの湿った高温の季節風に支配される。半島西岸にほぼ沿って山脈が縦断しており、季節風によってこの山脈に当たった湿った空気は、斜面に沿って高所へと持ち上げられ雲を形成する。風上斜面側に降水をもたらすこの降水パターンを地形性降雨という。

96本第1問問2参照。ここではムンバイを含む地域において、冬季に降水が少ないことが話題とされている。図1のウ地域に注目。冬季はユーラシア大陸内陸部から吹き出す北東季節風の影響下に入る。内陸部からの乾いた風であり、この地域に乾燥した気候をもたらす。

以上より、ムンバイの気候がわかるだろう。夏季は南西からの季節風によって多雨となり、冬季は北東からの季節風によって少雨となる。雨季乾季の降水量の差がとくに激しい地域として有名。6月から8月くらいの降水が極端に多く、逆に10月から5月の間にはほとんど雨が降らないCがムンバイである。

では、AとBの判定。カラチもチェンナイもともにセンター試験初出の都市であり、ここはカンあるいは推理が必要。

カラチはパキスタンの都市である。パキスタンの西にはイランやイラク、サウジアラビアなどの乾燥気候の国々が連続する。このことよりパキスタンも降水が少ない国であると推測できる。また、中学の歴史で習ったことだと思うが、古代パキスタンにはインダス文明が成立した。モヘンジョダロなどの遺跡で有名だが、君たちは知っているかな。古代文明はインダス文明以外にも、ナイル文明(エジプト)、メソポタミア文明(イラク)、黄河文明(中国華北)があるが、これらの共通点は河川の存在である。パキスタンを流下するインダス川、エジプトをうすおすナイル川、イランの低地を流れるチグリス川ユーフラテス川、そして黄土高原から華北平原を貫く黄河。乾燥地域において、河川水を共同で開発管理する必要性から人々が力を合わせ、社会が成り立ち国家へと発展した。つまり古代文明は全て乾燥地域において発生したものであると考えていいわけだ。乾燥地域を貫く川を外来河川というが、古代文明を成立させた河川は全てそれに該当し、人々はその恩恵を受けながら文明を発展させていった。<br>

このことからもパキスタンが乾燥国であり、インダス川が外来河川であることが想像できるだろう。降水量の少ないAがカラチに該当。

消去法によりBがチェンナイ。3つの都市の中で最も低緯度に位置するため、おそらく年間の平均気温も高くなるだろう。たしかにそういわれてみると、Bの気温が最も高そうな気がする(でもやっぱりよくわからないかな・笑)。

とりあえず本問については、ハイサーグラフという珍しいものが出題されたため、ちょっと戸惑いもあるのだが、過去においても99B追第4問問2や97B本第5問問2(これは降水だけであるが)などで特殊な形式のグラフが登場したこともあり、パッとみただけの印象ではなく、きちんと手順をふんで正確なグラフ読解を心がけていけば、必ず正解にたどり着くはずである。

 

問2 全然わからなかった。その上、選択肢が5つ(なぜ5つもあるのだ!?)もあり、カンに頼ったところで正解率は低い。参ったなあ(涙)。

地図で示される特定の地域の農業の様子をたずねるというパターンは第2問問5と共通している。ただしそれとは決定的な違いがある。第2問問5においては、各文において農作物の名称(トウモロコシ・豚・綿花・小麦)が示され農業の比較が容易だったのに比べると、第3問問2では、農作物は茶ぐらいであり、どうしてもイメージがつかみにくい。また第2問問5がホイットルセー農業区分に忠実な問題(Aは混合農業地域、Bは企業的穀物農業地域。Cは特定しにくいが)であったのに対し、第3問問2では選択肢5で「オアシス農業」という言葉がうかがえるくらい。センター試験の農業の問題というのは、あくまで農作物とホイットルセー農業区分がキーワードとなって出題されるという大原則があるわけで、そういう点からすれば、第2問問5は模範的なセンター問題、第3問問2はあまりに不適格な問題ということになる。

まあ、文句をいっていても仕方ないので問題の方を検討していこう。とりあえず場所が場所だけに「アジア式農業」が行われているとみて間違いないだろう。アジアの農業の特徴は、家族中心の零細経営によって、土地集約的に、自給的な作物が主に栽培されているという点。「家族経営的」「集約的」「自給的」がキーワード。<br>

家族経営的ということは大規模機械化がなされておらず、主に手作業によって農作業が行われるわけで、農民の数は多くなる。そのため、一人当たりの生産量(生産量÷農業従事者)が小さくなってしまい、これを「労働生産性が低い」という。

集約的というのはていねいな農業のこと。多くの手間ひまをかけて、狭い土地からできるだけたくさんの収穫を上げようとする。アジアのような人口密度の高い地域においては、雑な農業によって土地当たりの収穫量が少なくなってしまうということは、ぜひとも避けないといけないのだ。

自給的というのは自分が食べるために行う農業のこと。反対語は商業的。アジアは人口が多く、農作物を輸出できる余力は大きくない。

では以上のことを頭に入れて問題を検討していこう。

選択肢3参照。「粗放」とは集約の反対語。粗雑で土地生産性が低いこと。人口密度が低く、土地が余っている新大陸(北米・南米・オーストラリア)ならば粗放的な農業であっても構わないのだが、アジアとくにインドのような過密国ではまず考えられない農業形態。というわけで、選択肢3は消去。

あれ?「家族経営的」「集約的」「自給的」などのキーワードが出てくる選択肢はこれだけではないか。う~ん、ここからは他の解法で解いていくしかないのか。

ではホイットルセー農業区分に関する言葉を探してみよう。スペースの都合で細かい説明は省略するが、とりあえずここでは選択肢5の「オアシス農業」に目をつける。乾燥地域で行われる伝統的な灌漑農業のこと。外来河川や地下水路を用いた取水がしばしばみられる。

図1参照。X地域は乾燥地域だろうか。問1の答も参考にしたらいいが、ムンバイやチェンナイは(雨季と乾季によって降水の季節的な変化は大きいが)降水が十分ある湿潤地域である。Xについてもとくに乾燥しているとは考えにくい。よってここでオアシス農業がみられる可能性は低く、選択肢5も消去。

ここまでの段階で候補は1から3にしぼられる。ではさらに農業のキーワードとして重要なものを挙げてみよう。それは農作物の名称。これを用いた問題はかなり多い。本年度も第2問問5カ・キ・クの文章はいずれも畜産物を含めた農産物の名称がいくつも挙げられている。01B本第3問問7も参考になるが、ここでも各文章中に農作物の名称がある。

問題に戻ろう。選択肢中から農産物を探してみる。選択肢1「茶」、選択肢2「棚田(田があるということは米が栽培されているとみていい)」の2ヶ所。さあ、どうだろうか。

しかしここでまた困ってしまうのだ。インドは米の生産も茶の生産も世界有数(米は世界2位、茶は世界1位)。また、この2つの作物はともに温暖で湿潤な気候が必要なものなのだが、インドの東部は前述のようにその気候条件を満たしていると考えられる。というわけで、茶と米からは判断できない。<br>

さて、ここまで来て本当に困り果ててしまう。他にキーワードはあるか。選択肢1に「水はけのよい斜面」という言葉がある。さて、ここで地形に関する言葉を探してみよう。

そうするとその「斜面」以外に、選択肢2「山がち」「棚田(棚田がみられるということは山間部の傾斜地であろう。01B本第1問問3)」、選択肢4「河川」がある。

この地形的な特色を意識してXについて考える。う~ん、どうしてもはっきりしないのだが、どうやらこのXというところはガンジス川というインドを代表する大きな川が流れているところと一致しているのではないだろうか。ガンジス川についてはその位置がセンター試験で話題になったことはないが、ヒンドゥー教の聖なる川として有名なものではあるので君たちにも知っておいてほしいんだが。

以上より、X地域はガンジス川に沿う低地であり、斜面とは考えられないので選択肢4が正解となる。こりゃ難しい(涙)。

それにしてもこの問題はあんまりだと思う。4の記述内容はあまりにも抽象的でありとらえどころがない。これが正解だなんてちょっとキツイ。つまり「河川」からガンジス川を想像してそれで解けっていうことでしょ?ガンジス川は宗教的な意味では重要な河川ではあるが、外来河川でもなければ、国際河川でもないわけで、センター地理的にはポイントとなるような河川ではない。実際、過去問をみてもほとんど出題されていないわけだし。ガンジス川をメインにもってきているという点において、本問作成者はやっぱり何もわかってないなという印象を受ける。

他の選択肢については、1「茶」、2「棚田」、3「粗放的」、5「オアシス」などの記述があるので、まだマシなんだが。それにしても選択肢4は酷い。意味がわからん。

(おまけ)選択肢1;インドにおいて「水はけのよい斜面で茶がさかんに栽培されている」のはアッサム丘陵が代表的なところ。バングラデシュの北側。ヒマラヤ山脈南面の斜面。世界で最も雨の多いところといわれている。

選択肢2;これはどこだろう?ちょっとわからないが、01B第1問問3で説明されているように、東南アジアの山間部や島の斜面で一般的にみられると思っていいだろう。

選択肢3;「粗放的牧畜」とは「企業的牧畜」と同義。新大陸で広くみられる肉牛や毛羊の飼育のこと。ちなみに「牧畜」とは「放牧」のことで、ある一定の範囲の牧場・牧草地に家畜を放し飼いにすること。とくに新大陸におけるそれは完全に管理された近代的な農業形態である。商業的な側面が大きい。これに対し「遊牧」は異なる。より広い範囲を飼料となる草を求めてさすらう。乾燥地域や高山、寒冷地域などでみられる伝統的な農業形態である。概して自給的である。

選択肢5;「オアシス農業」自体は前述のように、乾燥地域でみられる伝統的な灌漑農業のこと。「山ろくから地下水路で水を引く」ことが行われているのは、イランやアフガニスタン、あるいはサハラ砂漠など。イランではこの地下水路をカナートといい、北アフリカではフォガラという。ともにセンター試験未出。

 

問3 これも難問。

図3について検討していく。このグラフは割合ではなく実数を表したものである。穀物の生産についてその実数が示されているのだから、人口が多い地域ではこの値は大きいと考えていいだろう。人が多くいればそれだけ必要となる食料の量も増えるはずだ。

米の生産だけみていくと、その順位は1・2・3・4の順。

小麦の生産をみると、その順位は2・4・1・3。

まずウのバングラデシュについては簡単に推測できるのではないか。日本の1/3程度の国土に、1億人を超える人口。世界で最も人口密度の高い国の一つである。インドも人口密度は高いがそれでも300人/平方キロ程度。バングラデシュは900人/平方キロを超える。このことから推測して、ア・イ・ウ・エの4つの地域の中で、ウのバングラデシュが最も人口密度が高く、それゆえに最も多くの人口を抱えていると考えていいだろう。この莫大な人口を支えるために、穀物の生産量も当然多いはず。グラフを参照してみると、穀物の生産が多いのは1と2。3と4は少なすぎてこれでバングラデシュの人口を支えきれるとは思えない。

ここからは気候的条件を考える。バングラデシュは降水量が大きい国である。雨が多いだけでなく、熱帯低気圧サイクロンの上陸もしばしば。このことから、小麦よりも米の生育に適した環境条件ではないかと推測される。米が主につくられていることを示す1のグラフがバングラデシュに該当。

このようにウについて考えることは難しいことではない。バングラデシュはセンターで何回も登場した国であり、そのイメージくらいはみんなも持っているはずである(そうでない者は、センター過去問の研究が足りない)。ただしここからが難。アとイとエについてはどうやって考えればいいのか。

先に述べたが、穀物の生産量のような実数は人口と比例することが多いので、地域ごとの人口規模を推測すれば何とか解答を導くことが可能。ただし、それはあくまで人口規模がわかっている(あるいは推測可能である)場合のみ。インド国内の3つの地域(ア・イ・エ)の人口については手がかりすらない。

ではどうする?実数がだめなら割合がある。統計で表される数量には、実数である絶対的数量と割合である相対的数量がある。これらをうまく使いこなすことによって、我々は正解にたどり着く大きなヒントを得ることがある。

図3の2・3・4のグラフに注目してみよう。2は米が1100で小麦が2500。全体で米の占める割合が約30%。3は米が800で小麦が0。米100%。4は米が60で、小麦が80。60÷140を計算して、米はおおよそ40%。

というわけで、米の栽培に最も適した地域のグラフが3(ただしここは生産量が少ないので、人口規模は小さいだろうが)、それとは反対に米が栽培しにくく小麦が中心に栽培されている地域のグラフが2になるだろう。米が栽培されにくい条件としては、冷涼と乾燥があるが、インドのような低緯度国において、寒いから米が栽培できないということはないだろう。ここでは乾燥が最大のキーワードとして考えられるべきなんじゃないか。

米よりも小麦の生産が優先されている2のグラフで表される地域は、小麦の栽培に適した気候条件であり、そして米の栽培には不向き。これを最も乾燥の度合いが激しい地域であると考える。問1で検討したように、南アジアは西で乾燥、東で湿潤。バングラデシュは多雨の国であるが、パキスタンは乾燥国。このことから類推するに2は、最も西部に位置し、最も少雨を思われるア地域に該当するだろう。これでどうだ!?

さらに、3は降水量からエで間違いないと思う。ここは雨も多そうだ。それにインド半島の最南端でもあり、人口はそれほど過密ではないだろう(インドの人口過密地域はバングラデシュに近い地域やガンジス川沿いの低地である。問3のXについて「国内で最も農業のさかんな地域である」という説明は、この地域でとくに人口が多いということを表している。自給的な農業が原則のアジアにおいては「農業生産=人口」の公式が成り立っている)。グラフ3の穀物生産の少なさも納得。これくらいで十分に人口が支えられるんじゃないかな。

以上、消去法によりイの地域は4が正解となる。

とはいったものの、僕にはこれが正解かどうかわからない。解答は見てないからね(笑)。じゃあ解答見ろよ!って君たちも突っ込みたいところだろうが、実は僕はセンター試験っていうのは解答は見ないのだ。普通の地理の先生は、問題やってみて、答え合わせして80点くらい取って、なかなかやるなぁっていう感じ。優秀な地理の先生は、問題やって答え合わせして、100点!を取って、すごく優秀だなって感じ。でも僕のレベルまでくると(笑)、問題みたら、出題者がいったい何の意図をもってその問題をつくったのかの方に興味があるし、問題を解くことなんか二の次。いや、問題はみた瞬間に答がわかるよ。センターの問題っていうのは基本的に過去問の焼き直しばかりだし、それに出題者の意図がわかれば、彼が君たちに何を答えさせようとしているのかまで類推できるから、それに従って答を選択したらいい。まあ、うまくいえないけれど、センター試験っていうのは僕にとっては試験というよりも、ある種のアート作品のような気がする。作成者が何らかの意図をもって、ある地理的命題を表現し、受験者にそれを伝えようとする。

おっと、ものすごく話が脱線したけれど、許してね(笑)。それはともかくとして、結局僕が何を言いたいかというと、この問題って出題者が何を考えてるかが全く意味不明だっていうこと。出題者が何を答えさせたいかがわからないから、こちらもそれに従った解答が用意できない。地理的命題のない行き当たりばったりの問題だっていうこと。犯罪でいったら通り魔だな。犯人がわからん。計画的犯罪ならば、恨みや利害関係でその動機をしぼって犯人を挙げることができるだが。

とりあえず問題に戻るが、実はグラフ2がイ地域を表すものである可能性も否定できない。これはおおいに迷う。本当にわからない。イの地域は高原だと思う。インド半島の上に乗る巨大なデカン高原。ここにはレグール土という火山性の肥沃度が分布し、綿花栽培がさかんに行われている。降水量そのものはア地域よりイ地域の方が多いとは思う。ただし、イは高原(つまり高燥地。低湿地の反対で、標高が高く、水に乏しい地域)であり、しかもレグールのような火山性の土壌は水はけが良い。水がどんどん染み入ってしまうので、水田としては利用しにくい。このことは何を意味する?要するに、イ地域には水田は分布しにくいということだ。ここまでくるとわけがわからん。グラフ2と4の間で、米の生産される割合は30%と40%で、実はさほど差がないともいえる。ここで決定的に違うものは「絶対的な生産量」なんだが、そんなものはない。せめてア地域とイ地域の人口に関するデータが示されていれば「農産物の生産=人口」の公式から判断が可能になるのだが。

ただ、それでも僕は、ア地域の方がイ地域より人口は多いと思う。高原上のイより、降水量は少ないものの河川沿いの低地であるアの方が人が多く住んでいるんじゃないかな。ここまでくると、何の根拠もない単なるカンだが。人口の多いア地域では、主に小麦をたくさん生産することで、人々の口を満たしているということ。う~ん、しかしこれはあくまで推測であり、どうにも厳しいな(涙)。綿花の生産量とかあれば楽勝なのに。

 

問4 酷い問題である。出題意図が見えない。問題作成者はインド製の自動車に乗っているのか?僕らの生活にインドの自動車は関係ないだろう。インドの自動車を知っていることと、大学合格の間に何の関係もない。

まず、DとEの判定。っていうか全然わからん。こんなもん。答を知っていれば後から理屈はいくらでもつけられるが、この問題を解くヒントは過去のセンター試験中には見られない。手がかりのない推理小説から犯人は推測できない。

というわけでカとキの判定に進もう。

製鉄所の位置はセンター常連ネタ。97B本第3問問7参照。日本の製鉄所の位置が示されている。北海道の室蘭を除き、太平洋ベルト地帯の沿岸部に集中している。日本では鉄鋼の原料である鉄鉱と石炭を海外に依存しているため、輸入に適した沿岸部に製鉄所が並んでいる。98B追第1問問4でも日本の鉄鋼業地域が話題とされている。沿岸部であっても、日本海側には製鉄所はみられない。

米国の製鉄所の位置も出題されている。02B本第2問問5参照。■が鉄鋼の工場の位置であるが、五大湖周辺や内陸部に立地しているのは比較的古い製鉄所。大西洋岸にも■が見られるが、これは最近新設された製鉄所。米国は鉄鉱資源が枯渇傾向にあり、近年は輸入鉄鉱石に依存する割合も増加してきた。輸入に適した臨海部に巨大な製鉄所が建設され、今後はこちらが米国鉄鋼業の中心となるだろう。

このように臨海部に巨大製鉄所が新設され、鉄鋼の中心が資源産地に近い内陸部から、輸入に適した臨海部に移動する傾向は世界的なものである。98B追第1問問2では多くの鉄鋼に関する地名が挙げられているが、これを参照してほしい。カーディフはイギリスの南ウェールズ地方の鉄鋼都市。臨海型の製鉄所が立地。ダンケルクは英仏海峡に面するフランスの港湾都市で、ここにも臨海型巨大製鉄所がつくられた。キルナはスウェーデンの、ビルバオはスペインの、それぞれ鉄山。クリーブランドとピッツバーグは米国の鉄鋼都市であるが、いずれも近年は衰退傾向にある。前者は五大湖に面し、後者はアパラチア炭田上に位置する。ドニエツクはウクライナの炭田立地型の鉄鋼都市、マグニトゴルスクはウラル山脈に沿う鉄山立地型の鉄鋼都市。この問題で問われているのは「鉄鋼業が臨海部に発展した都市群」であり、鉄鋼業についてはこのように「臨海型」こそが重要視されていることがわかる。

中国に関する問題としては00B追第3問問1がある。若干ずれているが、ここではシャンハイに注目。国内人口最大都市であり、商業の中心であるだけでなく、工業もたいへん発達している。とくに近年は鉄鋼業の躍進がめざましい。日本の協力によってシャンハイ郊外に巨大な銑鉄鋼鉄一貫工場が建設され、ここが中国鉄鋼業の中心となっている。

中国といえばかつての鉄鋼の中心は鉄鋼三大基地とよばれたアンシャン・パオトウ・ウーハンの内陸部。いずれも資源産地に近く、原料立地型の鉄鋼都市となっていた。しかし、石炭産出世界1位、鉄鉱石産出世界最大級の中国であっても、近年は臨海部に鉄鋼業が移動しつつあるのだ。<br>

これ以外にも、韓国のポハンやブラジルのビトリア、ドイツのブレーメンやイタリアのタラントなど、最近の製鉄所はその全てが臨海部に建設されており、もはや「鉄鋼業=臨海部」という図式は崩しようがない。センター試験もこのセオリーに従って解いていけばいいわけだ。

とはいえ、何にも例外はあるようで、現在でも内陸部の原料産地での鉄鋼生産がさかんな国もいくつかみられる。ロシアやウクライナが代表的なところだが(前述のマグニトゴルスクやドニエツクなど)、センター試験では出題されたことはない。それから実はインドがそうなのだ。炭田や鉄山が東部の内陸地域に集中しており、この近辺では伝統的に鉄鋼業がさかんな地域となっている。民族資本(インド人の資本家によってつくられたということ)や外国資本(イギリスや旧西ドイツや旧ソ連が金を出した)によって多くの製鉄所が建設されたという歴史がある。

以上より、本問において、キが鉄鋼の工場の分布を表していることになる。自動車は消去法によってカが該当。

問題自体の解説はこんな感じなのだが、この問題を目の当たりにして君たちはどう思う?あるいはこの解説を読んでみてどんなことを感じた?僕は「ふざけるな」としか思わんぞ。出題者はいったい何を考えているのだ?インドの鉄鋼業がそんなに大切か?いや、僕は大切ではないと思う。どうでもいいと思う。何回もくどいくらいに言っているように、センター試験のセオリーとしては「鉄鋼業は臨海部」という掟があるのだ。かつての問題にしても、それに従った問題しか出題されていないのだ。ロシアやウクライナと並び、鉄鋼業が未だに臨海部に移動していない国の数少ない例であるインドがわざわざ取り上げられる意味が不明。百歩ゆずってロシアが出題されるのは許そう。過去にマグニトゴルスクなどの地名も出題されたこともある。それに落ちぶれたとはいえ、ロシアは(そしてウクライナも)現在も世界有数の鉄鋼生産国である。それについて問われたのなら仕方ない。それは重要なことである。

でもインドはどうか?インドの鉄鋼業が重要だとは僕にはとても思えない。センター地理とは思考試験である。特定の事実を知っていてそれを解答するだけの試験ではない。いくつかの材料が与えられていて、それらを組み合わせ、手がかりにして、推論を組み立てるゲームである。そういう大原則さえ無視されてしまった本問については、まさに作問者の精神鑑定すらお願いしたいと思う昨今である。

 

問5 一見したところ単なる貿易統計問題。しかし取り上げられている国がかなり特殊であるので辛いところ。

スリランカ・パキスタン・バングラデシュの3カ国が話題に上っている。それぞれの特徴についてリストアップしてみよう。

この3カ国の中で最も貿易品目を想像しやすいのはスリランカではないか。スリランカは98B追第5問問7で登場。ただしそこではスリランカという国名自体は問われていない。単に「中央部が山地となっているある島」としか説明されていない。スリランカの特記事項は何といっても茶の生産と輸出。低緯度にあり温暖、モンスーンの影響でとくに島の南西部で夏季に降水が多い。山がちの国であるが、水はけのよい地形はむしろ茶の栽培には好都合。イギリス植民地ということもあり、紅茶好きのイギリス人によって多くの茶プランテーションが拓かれた。以来、スリランカはインドや中国に次ぐ世界的な茶生産国となった。インドや中国は人口も多く自給用に茶が栽培されているのに対し、この国では商品作物として栽培されている。輸出量は世界最大レベル。もちろん旧宗主国であるイギリスにその多くが輸出されている。似たような条件の国(旧イギリス植民地。温暖で丘陵・高原の国土を持ち。プランテーションで茶の栽培。輸出国としてとくに重要)な国としてはケニアがある。ケニアの貿易統計(もちろん輸出品としては茶が多い。主な貿易相手国はイギリス)は旧課程時代に出題されたことがある。

地理Aではあるが、02A本第2問問2に茶の輸出国を問う問題がそのまま出題されている。茶の輸出国1位スリランカ2位ケニアである。この問題に目を通しておけばスリランカの理解は容易。

以上より、輸出品目に茶があるPがスリランカであろう。ここまでは簡単。

ところがパキスタンとバングラデシュの判定は難しい。ともに人口規模の大きい国として有名であるが、貿易が問われたことはない。とくにパキスタンはセンター初出のはず。パキスタンを問う問題はセンター試験どころか共通一次までさかのぼってみてもちょっと記憶にない。人口大国であり、重要な国だとは思うので今まで出題されなかったのがむしろ不思議である。バングラデシュは低地国としてのキャラクターが明確であり、今までの出題のされ方もそのパターンが中心。人口は日本を上回る1億3千万人。しかし国土は狭く、日本の3分の1程度。そのため、人口密度は900人/平方キロとなり、極めて過密な人口をかかえる国となっている。

99B追第1問問2参照。バングラデシュの国土が描かれている。10mの等高線をたどってみればわかるが、国土の半分は海抜が10mに満たない低地で占められている。<br>

99B本第1問問3参照。低地国であるため、地球温暖化による海水面上昇の被害を比較的受けやすい。

問題に戻って、表1においてGとHのいずれかがバングラデシュかパキスタンに該当する。ともに衣類と繊維品が上位を占めている。数値(割合あるいは輸出額)が示されていればまだ大きなヒントになるんだが、これだけではわかりにくい。

革類はともにあるのでこれも手がかりにはなりにくい。Gには魚介類がある。しかし具体的に何のことなのかがわからない。いずれも海に面する国であるし巨大な河川も流れているので、魚が取れて何の不思議もない。繊維原料とは何か。パキスタンは世界的な綿花生産国である。バングラデシュはジュートの生産がさかん。これも具体的な繊維原料名が記されていないのでわからない。Hは米。しかし過去問を振り返ってみても、米の輸出国として重要なのは、タイと米国、そしてインドくらいで、パキスタンとバングラデシュは登場しない。スポーツ用品って何なんだ?もう何かなんだかわからない。

というわけで、一通り統計品目を確認したわけなんだが、どうだろう。ちなみに僕はこの問題は解けたんだけれでも、何を手がかりにしたと思う?これって正直いって若干卑怯だと思うんだが、ここで利用したのっていうのはいわゆるクイズ的な豆知識なのだ。地理的な原則とは何の関係もなく、単に、知っているとおもしろいけれどそれが一体どうしたの?っていうこぼれ話的な知識に過ぎない。そんなもので問題の正解不正解が決まってしまうのって、どうも卑怯のような気がして仕方ない。

実は僕が解くカギとしたのは「スポーツ用品」なのだ。具体的には何だと思う?これはサッカーボールなのだ。そして世界のサッカーボールのほとんどを生産しているのが、このパキスタンという国なのだ!よってHがパキスタンとなる。

原料の革が手に入りやすいことや、労働者の賃金が安いことなど、その理由にはさまざまなことが考えられるかもしれないが、それにしてもこんな知識は知っている人だけが知っている豆知識レベルのことだと思う。こんなことをメインにして問題を作ってしまう作問者のセンスって致命的なほど酷い。センター試験の傾向を知らずに問題を作ってしまった彼の責任は重い。ここは誰が作ったのか、ぜひとも名前を公表して日本中に恥さらしをしてほしいもんだと切に願う。全くしょうもない。

同じ問題にしてもいくらでも作り方はある。先にも述べたが、繊維原料について、綿花とジュートの差異を明確にしておけば解答は十分に可能であった。あるいは魚介類なんだが、これはおそらくエビなんだと思う。エビの養殖についてのネタならばセンター試験ではしばしば登場している。熱帯の沿岸地域である。乾燥帯の国パキスタンよりも熱帯国バングラデシュでエビの養殖がさかんであることは容易に推測できるだろう。エビ養殖のためにマングローブ林が伐採されていることは深刻な環境問題の一つでもある。

ちなみにジュートについては新課程になって出題されたことはない。旧課程時代に「ジュートは衣類に利用されない」という事例で出題されたことがあった。ジュートは熱帯の低湿地で栽培されている、背丈の高いせんい作物。主な生産国はインドとバングラデシュであるが、いずれもガンジス川河口などの三角州で主に栽培されている。この作物の特徴は、衣類にはならないということ。穀物を入れる袋などに利用される。というわけで、G国(バングラデシュ)の繊維原料とは間違いなくジュートのことだと思われる。ただしそうするとまたここでちょっと引っかかることが出てくるのだ。とにかくジュートは衣類には利用されない。これがほぼ唯一のジュートに関して君たちが知っておかなければいけない定義。ただし、この統計をみてほしい。G国の輸出品1位が衣類なのだ。逆にHは繊維品が1位で、衣類が2位。繊維品をジュートの穀物袋だと考えると、繊維品の輸出がとくに多いHこそがバングラデシュだと思えてしまう。こりゃ難しい、っていうか問題自体が不適切だよ、絶対。

パキスタンが米の輸出国であるという事実に戸惑う者も多いだろう。なぜ乾燥国パキスタンで米の栽培が!?実はこの国はイギリスの植民地時代に灌漑設備の整備が進められていて、インダス川沿いの地域ではさかんに米が栽培されているのだ。とくにカラチの辺りなんかは(雨なんて降らないのに)豊かな米作地帯になっているそうだ。それにしたって。パキスタンだって人口1億人を超える大国である。穀物を輸出できるような余裕があるのだろうか。この国は小麦の生産もかなり多い。伝統的には小麦を主食とする(小麦を焼いたナンは有名だね)国であるので、米は輸出にまわせるということだろうか。いずれにせよ、君たちが知っておくべき知識ではない。

とはいうものの、これからはこれくらいの難度の統計問題がスタンダードになる可能性すらある。統計についてはかなり細かい部分までチェックしておく必要があるかもしれない。

今年はアジアやアメリカ諸国が出題されているので、来年はアフリカやヨーロッパの国々がちょっと怪しいかな。

 

問6 スリランカの民族・宗教構成について。直接的な類題は02B本第3問問4にある。Qのグラフがスリランカの宗教別人口割合を表す。仏教徒が過半数。ただしヒンドゥー教徒の割合も低くなく、さらに一部にはイスラム教徒も分布する。

この02年の問題をみればわかるように、スリランカについては仏教徒の数が最も多いということさえ知っていればセンターレベルとしては十分ということである。

それが本問によってくつがえった。スリランカについてかなり細かい民族・宗教構成まで問われている。というわけで、この問題もまたセンター試験の傾向を読んでいない未熟な作問者の手によるものである。

1;シンハラ人とタミル人という人々が住んでいる。シンハラ人という名称はセンター試験初出。タミル人は過去に登場している。正確には「タミル人」ではなく「タミル語」であるが、97B本第2問問6参照。中国系住民が多数を占めるシンガポールでは、中国語・マレー語・タミル語・英語が公用語となっているのだが、タミル語というのはインド南部地方の言語であり、十数個あるというインドの公用語の一つでもある。東南アジアに住んでいるインド系の人々の多くは、インド半島南部からやってきたタミル人。華僑になぞらえて印僑とよばれることもある。山がちで耕地に恵まれない華南を捨て海外に渡って行った華僑と同様、同じように耕地の少ないインド半島南部を後にして彼らは世界へと居を移したのであった。

2;シンハラ人は仏教徒。スリランカ人口の多くを占めるシンハラ人が仏教徒であるので、この国の主な宗教は仏教であるといえるのだ。それに対し、少数派のタミル人は、ヒンドゥー教徒。東南アジアのタミル人同様、スリランカのタミル人ももともとはインド南部に居住し、それがスリランカに渡ってきたもの。インド古来の伝統的な宗教であるヒンドゥー教を、現在でも信仰している。

3;公用語についてはおぼえる必要はないだろう。選択肢2が誤りのため、本選択肢は正文となる。

4;前述のように、タミル人とはインド半島南部に住む人々のこと。世界中に移住していった華僑のほとんどは華南の出身であるのと同様、世界中の印僑の出身地もインド南部に集中している。ここで使用されている言語がタミル語であり、世界各地のインド系住民たちは今でもタミル語を使用することがある。

こんな風な感じで解けたらいいんじゃないかな。つまり97年の問題を研究する際に、タミル人(あるいはタミル語)をキーワードとして頭に突っ込んでおいて、それがインドとつながりの深い用語であることを意識しておく。そうすれば「タミル=イスラム」という部分を誤りだと判定できる。

ただ、やっぱり本問はセンターの問題としては、感触が異なる。教科書通りの出題のされ方をしているというか、どうもそんなニュアンス。意外なことかもしれないけれど、原則としてセンター試験では教科書的なことはあまり聞かれない。そもそも教科書なんて読まなくても得点できるようになっている。かくいう僕も、一応参考にするために何種類かの教科書を持ってはいるけれど、それを実際に開くことはまずほとんどない。教科書でどんなことがどんな風に書かれているか知らなくても全然構わないし、それどころか教科書を読んだからといっていい点が取れるわけでもない。センター試験で重視されるのは、何といっても統計数値なのだ。02年の問題が典型だろう。スリランカの宗教構成は仏教徒が約4分の3を占め、他の宗教はわずか。「スリランカ=仏教」とみて、まず間違いない。

でも教科書や参考書ではしつこいくらいに「スリランカ=仏教+ヒンドゥー教」というように出てくる。実際のヒンドゥー教徒は人口の10%程度なのに(02B第3問問4図4参照。グラフQのアの部分がスリランカのヒンドゥー教徒)。これってどうなんだろうね?学校で地理をしっかり勉強した者は、スリランカのヒンドゥー教徒を重要な存在だと思ってしまう。でも実際にはたいした割合でもない。で、センター試験っていうのはクールで客観的な試験だから、統計が重要視され、02年みたいな出題パターンになる。シンプルに統計を重視して「スリランカ=仏教」と頭に叩き込んでおいた者の方がスムーズに問題を解くことができる。

だから実際のところ、03年の問題はどうなんだろう?っていう疑念が晴れない。統計ではなく、教科書の記述を重視した問い方になっているじゃないか。ステレオタイプ的というか、固定観念、あるいは盲目な主観的というか。センター試験での出題のされ方はむしろ統計数値などを基本とした客観的なものだと思う。作問者はどうも頭が固いというか古いセンスをしているというか、とにかく問題がかっこよくない。クールではない。

 

問7 これも納得できない部分が一部あるんだが、問題自体は過去問から引用されたネタがポイントになっているわけで、解答にはそれほど困難はなかったはず。っていうか、この問題で得点しておかないとこの大問で全滅の可能性がある!?

1;語族ネタ。センター試験で語族が問われたケースはない。こんなのわかるわけないから、この選択肢は解答の候補から外す(誤文を選ぶ問題なので、これは正文と決め付ける)。

2;オーストラリアでは白豪主義の反省の元に、多文化主義を推し進めている。最後の差別国家とよばれた南アフリカ共和国においても、90年代に入り、アパルトヘイト(人種差別政策)に基づく法律が全て撤廃された。このように、憲法や法律のレベルで差別を肯定しているような国は世界中に一つもない。人種間の平等、少数民族の尊重が全ての国で行われている。

このことから、インドだけがそんな差別的な政策を助長しているとは思えない。国家の根幹たる憲法の精神においても。カースト制度はもちろん否定されていると考えるべきだろう。

とはいうものの、あくまで憲法や法律の面において否定されているだけであって、現在でも農村を中心にカースト制度は残っている。そして富裕な地主が農地を独占する大土地所有制もこの国には存在する。富める上流階級はさらに富み、貧しい下層の人々はさらに貧困にあえぐ。法律的には平等がうたわれているのかもしれないが、それは経済的には何の意味ももたない。政治的平等と経済的平等は異なる。

3;類題は99B本第3問問2選択肢4。インドが世界的なコンピュータソフト生産国であり、技術的にもたいへんすぐれていることはもはや世界の常識だろう。「国際的にみて賃金水準が低く」というのはインドの一人当たりGNPの低さを想像してみればいい。「英語を理解する」というのは、英語がインドの公用語の一つであることと関係している。

4;その地域の文化が端的に現れる代表的なものに、食事がある。日本人が最も大好物であるメニューは生の魚なのだそうだが、多くの外国人はその嗜好を理解できない。

食事に関する問題はかつては地理Aの定番だったが、このように地理Bでも近年しばしば出題されるようになったので注意が必要。ただしポイントは簡単。「欧米化が進むと、肉食が増える」ということ。ヨーロッパや米国など西洋の人々は肉類をよく食べる。オーストラリアも同様。ここもヨーロッパ人の国である。それに対し、アジアやアフリカの国々ではそれほど肉を食べない。穀物やイモ類(たとえばナイジェリア人はキャッサバというイモが主食)がメイン。ただしアジアでも日本のように欧米化が進む国では、近年は肉類の摂取量が増えているようだ。

類題として、まず01B追第4問問5が挙げられるのでこれを参照してみよう。ここではとにかく肉類に注目。もっともこの表においては、肉類だけでなく、牛乳も乳製品も同じカテゴリーに含まれているのだが、いずれも生活の欧米化によって食卓にのぼる率の高くなるものであるので、まとめて考えてしまっていい。以上より、「肉類・牛乳・乳製品」供給が大きいのが最も欧米化した国と考える。というか選択肢の中に欧米そのもの(つまり米国)があるので悩む必要はない。Zが米国となる。<br>

それに対し、タイとネパールの判定は難しい。XとYは肉類の供給割合がほぼ等しい。たしかにタイもネパールも、アジアの国であり、それほど欧米化も進んでいないだろうから、国民の肉類摂取が少ないのは納得である。というわけで、ここではXの「魚介類」の少なさに目をつけよう。少ないというより、全くないといっていい。内陸国ネパールにおいては、人々の食卓に魚がのぼることはほとんどないのではないか。

このように「欧米=肉類」を原則として考えていくのがポイント。

さらに発展として02B本第3問問7がある。図6において、横軸に魚介類、縦軸に肉類が示されている。これだけみても日本人の異常なまでの魚好きがうかがえておもしろいのだが、ここもまずは肉類に注目してみよう。

さまざまな国名が挙げられている。だいたいどれも知っているかな。日本からトルコまでの広い範囲ではあるが、いずれもアジアの国々である。欧米の国が含まれていないので、それらとの肉類の供給量を比較することはできない。つまり先ほどの「欧米=肉類」という公式は利用できない。

というわけでここでは他の定理を用いよう。それは「インドでは牛肉を食べない」という原則。01B本第2問問2参照。インドに向かって矢印が向いている(インドはこの品目を輸入している)ので、答は牛肉ではない。インドで広く信仰されている宗教はヒンドゥー教である。インドでは牛を「神様の乗り物」として考え、神聖視している。それゆえに牛を殺して、肉を食べるという行為は一般的ではない。

ちなみに、だからといってインドで牛が希少な存在かというとそんなことはない。国中で広くみられるありふれた動物である。牛の頭数は、インドが世界1位なのだ。02B本第3問問6ドットマップT参照。インド全体(とくに北部に多いようだが)に集中しているのが牛の頭数を表すドットである。殺して食用としない代わりに、水田や畑の耕作用、あるいは搾乳用(インド料理店でヨーグルトなどの加工食品を食べたことのある人もいるだろう)として、人々の生活を支える重要な存在となっているのだ(そんな感じで、神聖な動物だといいながら、実際は農耕させたり、乳を搾り取ったりしているわけで、この辺りがヒンドゥー教徒というかインド人の思考回路のわけわからんとこなのだが・笑)。

それはともかくとして、とにかくインド人が牛肉を食べないということは絶対的なことであり、このことからインドでは肉類全体の消費量も少ないと考えてみてほしい。もちろん肉類というのは牛だけではなくて、他には豚や羊などが代表的なところなのだが、これらの消費量も少ない。豚の分布は世界的にみればある特定の地域のみに偏っていて、インドにはほとんどみられない。世界の豚の50%は中国に集中。そして着たヨーロッパ平原や米国五大湖南部コーンベルトなどの混合農業地域でもかなり多くの豚が飼育されているが、それ以外の場所ではそれほど飼われていない。

羊は原則として乾燥地域でのみ飼育される。インドは湿潤な気候が大半をしめ、羊の分布は多くない。しかも羊は遊牧(極端に広い範囲を草を求めてさまよう)や放牧(広く牧場に放し飼い)によって飼育されるので、インドのような人口過密国にはあまり適さない家畜である。

02B本第3問問6ドットマップS・Uが、豚と羊の分布を示しているので、ともにインドにはそれほど多くないことを確認しておいてもいい。

このことより「インドでは肉類の供給が少ない」と定義する。02B本第3問問7図6においては、Zがインドとわかる。XとYについては肉類ではなく、魚介類の多さで決めなくてはいけないのだが、本問と話題がずれるのでここではその解答と解説は省略。

問題に戻ろう。インドにおける「伝統的な価値観」とはカースト制度やヒンドゥー教に基づく価値観のことであろう。このうちカースト制度は食生活とは関係ないので、ここではやはりヒンドゥー教が牛食を禁じていることがポイントとなってくる。「農村でも」とわざわざ断っているが、これはとくに農村においてカースト制度やヒンドゥー教的な考え方が残っているということと関連するのだろうが、とくに重要ではない。何といっても「食生活が肉食中心」が重要であると思われる。02年の問題でも確認したように、インドでの肉類の供給割合は低い。あきらかに本選択肢は誤りである。

このように選択肢4が誤文であることだけ指摘すれば他の選択肢の正誤判定はどうでもいいわけで、そういう意味では本問の難易度は低いと思われる。選択肢1の「語族」のように特殊なネタが登場しているからといってビビる必要はない。前年にも出題されているインドでの肉類の少なさに注目すれば解ける問題なのだ。