2012年度地理A本試験解説

たつじんオリジナル解説 [2012年度 地理A 本試験]       

 

[1] ③ 北極圏は白夜(太陽が24時間地平線の上にある状態)、極夜(太陽が24時間地平線の下にある状態)となる範囲のことで、その南限である北緯66.6°の地点では、夏至(6月22日)に白夜、冬至(12月22日)に極夜となる。北欧の湾奥を通過するイが北極圏の南限。

北回帰線は、夏至の日の正午の太陽高度が90°になる地点。北緯23.4°である(地球が地軸を公転面の垂線から23.4°傾けながら公転していることと関係している)。ホンコンやバングラデシュ、サハラ砂漠(*)やキューバを通過するウが該当。エは赤道。

(*)俗に「北回帰線付近には乾燥地域が広がる」と教科書などに書いてあるが、直接に関係するものではない。北回帰線はあくまで太陽高度に関係するもので、気温や降水量とは原則関係ない。北回帰線上であっても降水量の多い地域はいくらでもある。中緯度高圧帯が形成される緯度帯(北緯20°から30°)と一致するため、乾燥地域が形成されているだけである。

 

[2] ② ナイル川の河口は広大な三角州(デルタ)である。

 

[3]① 「針葉樹」であるので冷帯のJ(フィンランド)が該当。なおフィンランド周辺は安定陸塊の楯状地(意味は知らなくていい)であり、ほぼ平坦な地形となっているが、氷河の作用(侵食や運搬)により多くの湖が形成されている。蒸発量も少ないのでこうした湖が多く存在する。

 

[4]④

①;「年較差<日較差」であるのは低緯度。

②;「降水量<蒸発量」は乾燥地域。「植生がみられない」のは砂漠。

③;「ツンドラ」は北極海沿岸など。通常は氷雪に覆われ、短い夏の間のみ地表の氷が解け、地衣・蘚苔類が繁茂する荒地。

④;夏季乾燥、冬季湿潤は地中海性気候。緯度35°一帯の大陸西岸から内陸部にかけて。Sは大陸東岸に近く、夏季は十分な降水がある。ハリケーンの来襲など。

 

[5]④ 地理A特有の問題。

カ;2万5千分の1地形図は航空写真などを利用した「実測図」。2万5千分の1地形図を4枚集めて縮尺を半分にして作るため、5万分の1地形図は「編集図」と言われる。

キ;単純に数字を比較すればいい。「1/25000 > 1/50000」である。5万分の1地形図の方が「小さい」のだ。

 

[6]② 地理Bでは尾根線や谷線が直接問われることは少ないが、理解しやすい好問。

①;等高線が閉曲線となっている部分は原則として山頂(中央が盛り上がっている)。北側の山頂は「746」m、南側の山頂は「706」m。中央付近の標高はそれより低く、620m程度となっている。

②;高い方から低い方に降りていく時、等高線が凸の方向に出張っているならば尾根線。シの判定も、高所から低所に向かって移動することを考える。シの北西端は630mの等高線に沿う。南東端は460m程度。北西から南東に向かって下っている。等高線の方向は凹となっており、谷である。

③;同様に高低を判定。北が高く(閉曲線で示される山頂があるのを確認)、南が低い。等高線は凸の方向に降りており、これは尾根線。すぐ東側に河川が流れているがわかるだろうか。白黒の図においては、等高線も小河川も細い実線で示されるので区別が難しいのだが、等高線同士は交差しないので、それを手がかりに河川を判定するのは可能だろう。多くの等高線を横切りながら実線が描かれているのがわかるだろうか。これが河川。こちらは高所から等高線が凹の方向に下っている(シの線と同様)。谷線である。

④;等高線の混み具合から判定。北部で等高線が密で急斜面、南部は疎で傾斜が緩やか。

 

[7]① 相対値(割合)を表すのは階級区分図。

②等値線図は気温や降水量など。③ドットマップは絶対分布。④流線図は線の太さが絶対値(実数)を表している。

 

[8]④ GPSは位置を特定するもの。

 

[9]⑥ 樹木の種類がポイント。針葉樹(冷帯林)は軟木が多く、主にパルプ・紙の原料となる。ロシアやカナダが主であるアが木材チップになる。

硬木である熱帯林は高級材である。とくにインドネシアを知っておくといいのだが、この国は森林資源の保護(外国による無秩序な伐採を防ぎ、国で森林を管理する)や国内産業育成(木材加工業など)を目的に、原木での輸出が規制されている。インドネシア(そしてマレーシア)からの矢印を合板と考えよう。

 

[10]① これもいい問題ですね。なかなか考えさせる。

そもそもアフリカと中央・南アメリカは石油の輸入量は少ないはず。そうした少ない量の中での割合だから、ちょっと頭を悩ませる。

やっぱり石油の輸入量が多いヨーロッパを基準に考えていいと思う。ここではDやBが多い。Dはアフリカや中央・南アメリカには存在しないのに対し、Bはむしろヨーロッパ以外で高い割合となっている(*)。Dはヨーロッパに近接した旧ソ連と考えて妥当だろう。ロシアからパイプラインが敷設されているなどして、旧ソ連地域からヨーロッパへの原油の流れは大きい。

さらにB。これがなかなか難しい。ただ、ここで絶対に忘れては行けないのは、イタリアとリビア、フランスとアルジェリアといった、西欧諸国とアフリカ産油国との関係。かつての宗主国と植民地であり、現在でも経済的なつながりは深い。このことを考え、ヨーロッパにおけるアフリカからの原油輸入が少ないはずがない。Bをアフリカと考えていいんじゃないか?

さらに残ったAとCであるが、アフリカで割合の高いA、中央・南アメリカで割合の高いCという違いがある。Cを中央・南アメリカと考えていいのではないか。同じ地域の産油国(ベネズエラなど)から近隣諸国へ向けて原油が輸出されている様子を考えるといい。

最後のAがアジアということになるが、アジアからアフリカへの距離は近く、高い割合になるのも納得である。アジアから中央・南アメリカ(とくにこの場合のアジアは産油地域である西アジアが中心であるはず)の距離は遠く、輸出量が限定される点もとくに矛盾はない。

(*)何度も繰り返すけれど、あくまで割合が高いのであって、実数が多いというわけではない。ヨーロッパの輸入量に比べれば微々たるものだと思う。

 

[11]⑥ 年々深化を続ける貿易統計の問題。さすがに古着は難しいね。ここは衣料品と綿花を特定して、後は消去法で考えるのがベスト。

衣料品については中国が主であるが、とくにイタリアに注目しておこう。高級品である。クが衣料品。

さらにここではウズベキスタンという特殊な国名に注意。綿花の世界的な生産国の一つである(過剰な綿花栽培のため、アラル海が縮小したという環境問題は有名だろう)、カと綿花と考えよう。

 

[12]② 距離や言語が重要な要素となる。①はイギリス。隣接したアイルランドからの留学生が多い。なおアイルランドはアイルランド語とともに英語が公用語の一つとなっている(かつてイギリスによって植民地支配されていたという歴史がある)。④はフランス。モロッコやアルジェリアなど旧フランス領の国が並ぶ。両国とも公用語やアラビア語であるが、フランス語も通用している。③はマレーシアが気になるが、位置的に考えてオーストラリアだろう。ブミプトラ政策によってマレー系住民が優遇されているので、経済的に豊かな中国系住民の中には外国に留学する者が多くなっている。残った②がアメリカ合衆国だろうか。とくに特徴はないが、中国やインドはそもそも人口規模も大きな国である。

 

[13] ⑤ 旅行に関する問題は難しいんだよなぁ。地理A特有の問題なので、地理B受験者は気にしなくてもいいのだが。

「旅行者」なのである程度の経済力は必要なのではないかと考える。低所得者より高所得者の方がより旅行しやすいことは当たり前だよね。

太い関係にあるのがP—QとP—南北アメリカ、さらにP—Rの関係も細くはない。Pを中心として旅行者が多いことがわかる。Pを高所得者が多い(要するに1人当たりGNIが高い)ヨーロッパと断定してしまっていいだろう。南北アメリカからヨーロッパの旅行についても、例えばアメリカ合衆国からヨーロッパの歴史的な文化遺産を観光に出かけていると解釈すればいいだろう。

そうなるとポイントはQとRになるのだが、ヨーロッパや南北アメリカとより関係が深いQ、関係の薄いRという定義になる。ヨーロッパとアフリカと考えると密接な関係にあるように思うが、南北アメリカ(とくにここではアメリカ合衆国を考えればいいと思う)とアフリカはどうだろうか?人口規模もそもそもアジアが多いのだから、Qから他の地域への旅行者数の合計とRからの合計を比較してみてもいいと思う。「Q>R」となり、Qがアジアと考えるのが妥当なんじゃないかな。Rがアフリカとなり、正解は⑤。

 

[14]③ この話題も地理Aでしか出題されないんじゃないかな。ヨーロッパはたしかに内陸水路網は発達しているが、河港はそもそも海港に比べるとさほど規模が大きいものにはならないだろう。またヨーロッパの多くを占めるEU諸国は同じEU圏内の国々との貿易が中心であり、海港を使用してのアジアや南北アメリカとの貿易額が多いわけではない。ヨーロッパの港が上位を占めることはありえないのではないか。

以上のように考えれば、十分③が誤りであることは推測できるだろう。

ここからは知識になってしまうのだが、実際のところコンテナ貨物取扱量の上位を占めているのはシンガポール、ホンコン、シャンハイ、プサン(韓国)など東・東南アジアやロサンゼルスやニューヨークなどアメリカ合衆国の港。

 

[15]① 工業製品統計に関するちょっと変わった問題。具体的な品目の統計を覚えておくわけにはいかないので、想像するしかない。中国を中心としたアジアの急成長を意識し、全体として高い割合となっている①がアジアとなる。自動車のみアジアの値が低いが、これのみ具体的な順位で考えてほしい。1位中国、2位日本、3位アメリカ合衆国、4位ヨーロッパというように、各地域に比較的分散している。

 

[16]④

①;ベネズエラ(マラカイボ湖)。この国はOPECに加盟し、原油の産出が多い。

②;ガラパゴス諸島。「進化論の島」である。

③;ブラジル高原北部。よくわからないので保留。

④;寒流は北に向かって流れている。「南下」を「北上」と改める。誤文。

 

[17]③

①;イに該当。寒流の影響で大気が安定し、降水量が少ない。海岸冷笑砂漠となっている。このような海流の作用による砂漠は形成の時代が古く、長い年月の間に岩石の風化が進み、砂砂漠になっているケースが多い。一方、サハラ砂漠など中緯度高圧帯の影響によって形成された対流性の砂漠は比較的新しい時代に作られたもので、岩石の風化が進まず、岩石砂漠となっている。

②;ウに該当。アルゼンチン東部からウルグアイにかけての草原はパンパと呼ばれ、大規模な農牧業地域となっている。やや降水量が多い東部はトウモロコシの栽培や牛の放牧、降水量が少ない西部は羊の放牧など。

③;エに該当。アルゼンチン南部のパタゴニア地方は全体としてやや乾燥した荒地となっているが、とくに最南部は南極海に接し、気温はかなり寒冷となる。アンデス山脈に沿う高地には氷河もみられると考えていいだろう。

④;赤道に近い熱帯雨林。

 

[18] ② キャッサバは熱帯の低地。高原は該当しない。ここは「ジャガイモ」と変えるのが適当だろう。極めて高温多雨の生育環境を持つ農作物として、自給作物ならばキャッサバ、商品作物ならば天然ゴム・油ヤシ・カカオをぜひ知っておこう。

④のコーヒーがちょっとややこしいが、コーヒーの栽培条件は「1000m以上の高原」であり、適当。

 

[19]④ Jのジャマイカなんか珍しいよね。意外と一般的に名前を知られている国だと思うので、この機会に位置も知っておこう。KのブラジルとLのアルゼンチンは問題ないよね。

マの「サンバ」はブラジルでK、ミの「タンゴ」はアルゼンチンでL。正解は④。ジャマイカのレゲエは消去法でいい。ジャマイカは人口のほとんどが黒人(奴隷の子孫)であり、アフリカ系の文化がみられる。

 

[20]② 意外とこういう風に出題されたら難しかったりするんだよね。②が絶対的に正解だからこれで行きましょって問題。①とか全然わからないもん(笑)。

ただ、③と④だけはしっかり確認しておきましょう。ムラートは先住民(黄色人種)とアフリカ系(黒色人種)の混血、メスチソは先住民とヨーロッパ系(白色人種)の混血。なお先住民と黒色人種の混血はサンボ。

 

[21]③ 例えば②なんて全然知らないネタじゃない?こんなのは答えにならないよ。つまり(誤文判定問題なので)正文ということ。ここでは対になるキーワードに注目し、確実に「安定陸塊」を拾っていこう。チリやペルーはアンデス山脈を国土に含み、新期造山帯である。

①では経済的格差が広がっていくことが述べられ、④では伝統的な生活が失われていくことが説かれている。ともに現代社会の必要悪ともいえる課題の一つ。

 

[22]② アルゼンチンは特殊な国。(商品作物ではない)農産物が輸出品目の上位を占めている世界でも数少ない国の一つ。

①が「南半球最大の工業国」ブラジル。②は隠れた資源国コロンビア。④は実はニッケルの島であるキューバ。何となく4つとも意外な感じがするでしょ?ぜひチェックしておきましょう。

 

[23]② この問題がすごくおもしろいんだなぁ。難度が極めて高い「捨て問」なんだろうけれど、解答不可能っていうわけでもない。授業で取り上げる価値がある興味深い問題ではあります。

「人口上位8カ国」という縛りはあるものの、アフリカ諸国の1人当たりGNIは全般的に低いだろう。衛生環境も整っておらず、平均寿命も短いと思われる。Aがアフリカ。おそらくアフリカ8カ国中最も1人当たりGNIが高い(約6000ドル)は南アフリカ共和国だと思われる。

さらに東南・南アジア。ここには確実にバングラデシュが含まれている。他はインド、パキスタン、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどだと思うが。バングラデシュは1人当たりGNIが低いことが課題である国の一つ。Bが東南・南アジア。1人当たりGNIが約4000ドルの国はおそらくタイ。

ここからが迷うわけだ。CとDを比較して、平均寿命はいずれの国も大差ないので、これは手がかりにならない。そうなると1人当たりGNIで比較するしかないのだ。Cで最も1人当たりGNIが高いのは約12000ドル。これに対しDは約20000ドル。ん、発展途上国で20000ドルなんていうのはかなり高いぞ!?韓国とかサウジアラビアのレベル。中央・南アメリカの主要国(人口が8位以内に入りそうな国ってことね)で1人当たりGNIが高いのはメキシコ。ここで約10000ドルと覚えておこう。なるほど、Cが中央・南アメリカならば納得できる。

ではDが東ヨーロッパとして、1人当たりGNIが20000ドルに達する国なんかあるか?考える。。。そうか、あるじゃないか!?近年EUに加盟して西ヨーロッパから多くの工場が進出することで工業化を果たしているあの国が。そう、チェコですね。チェコは古い時代より高い技術水準を誇る国であり、ソ連の実質的支配により社会主義化されてしまったため経済レベル的には停滞したものの、自由化を果たした現在、経済レベルも急上昇している。チェコの1人当たりGNIが約20000ドルであることを考え、Dが東ヨーロッパとなる。ウ〜ん、難しい、手強い問題。でもチェコの存在を考えるなんて、なかなか素敵な問題じゃないですか。おしゃれですね。

 

[24]④ すごい問題ですね。テーマが重たい。こうした現実も地理の試験を通して知っていかないと。

ウがHIV。経済的に避妊具を入手しにくいアフリカ南部諸国で、キャリアの割合が高い。

イがマラリア。蚊によって伝染し、熱帯地域に広がる。

残ったアが結核。それにしてもHIVはアメリカ合衆国で死亡者が多いと思ったがそうではないんですね。キャリアになっても高度な医療で発症を抑えているということでしょうか。

 

[25]④ コンゴ民主は赤道直下の熱帯雨林に国土を有し、砂漠化とは関係ない。砂漠化とは反乾燥地域(ステップ)において生じる環境問題で、草原から植生が失われること。

それにしても、本問はデータとして非常に興味深い。この大問は全体的にアフリカにおける深刻な状況を取り上げていて、視点として極めて重い。地理という科目の価値はこうした部分にあると思う。非常に感じ入るところではある。

 

[26]②

②については誤っている部分がないでしょう。何となく正解にしていいと思います。一応他の選択肢についても確認を。

①;「国営→民営」が通常のベクトルの向き。「民間→国有化」はそれに適合しない。

③;スッゲーむちゃむちゃな選択肢!もちろん絶対にバツです。でも、日本は平和のために核武装するべきだなんていう論調もあるわけで。そうした人間の感覚がいかに狂っているかがわかるというもの。

④;「農村→都市」が人口移動のベクトル。「都市→農村」の移動は原則ありえない。

 

[27]③ カ;「砂漠化」でサヘル諸国でいいと思う。Qが該当。

キ;ハリケーンの被害が内陸国であるとは思えないのでPが該当。

残ったクがRになる。アフガニスタンである。

 

[28]〜[33] 地理Bと同じ。