2016年度地理B追試験[第3問]解説

たつじんオリジナル解説[2016年度地理B追試験]第3問     

 

<第3問・問1>

 

[ファースト・インプレッション] 写真がないので、解答できないのだが、それはともかくとして「林地村」って最近本当によく登場するんだわ。よかったら、2009年度地理B本試験第4問問1の図をみてください。路村の形になっていて、その背後に長方形に区分された耕地が広がる。林地村もこのパターンなのです。

 

[解法]写真がないので、どうしようもないのだが、とりあえずアとイの判定のみ。アは「円村」。中央の広場(ここにはしばしばキリスト教の教会が位置していたりする)を囲むように家屋が配置。その周りに防御用の壁が築かれることも。

イは「林地村」。ドイツ東部にみられる開拓村で、開拓道路に沿って家屋が並ぶ「路村」形態となる。家屋の背後に短冊状の耕地が配置され、農作業の便はいい。2009年度地理B本試験第4問問1で、図を伴った問題が出題されているので、そちらも参照されたい。

 

[アフターアクション] 林地村が最近やたら出題されているのだ。路村形態をしっかり目に焼き付け、その特徴を理解しておこう。もちろん背後の短冊状の耕地もセットで。

 

 

<第3問・問2>

 

[ファースト・インプレッション]] 現代日本の変容に関する問題。地域にこだわらず、一般論として解いてみよう。

 

[解法] 日本の農業の現状を考えれば解答は難しくないと思う。北海道に限らず、日本全体の傾向として専業農家は減少し、ほとんどが兼業農家となっている。「主業農家」という言葉を知らない人もいるかも知れないが、少なくとも農業を主な収入源とする世帯が増えているとは思えないだろう。④が誤りとなる。

なお、かつての日本においては。「専業農家×兼業農家」という区分が一般的であったが、専業農家はほとんど姿を消し、兼業農家ばかりになったため、この区分はあまり意味をなさなくなった。現在は「主業農家×副業的農家」という区分が一般的となりつつある。主業農家は、農業を主としながらも他の仕事も行う農家。副業的農家というのは、その反対で、他の仕事をメインとしつつ、農業も多少は行っている農家、という意味。とくに知らなくても構いません。

これとは別に、「販売農家×自給的農家」という区分もあり、販売を目的として農業を行う農家と、自分で食べる分だけを栽培する農家という区分。こちらも前者が次第に減少し、後者が増えつつある。

 

[アフターアクション] 特別な知識は不要で、なんとなく解けるレベルの問題じゃないかな。たしかに、政府によって「農業の振興策」は行われてはいるのだけれども、なかなかスムーズにはいかないよね。

2015年度地理B本試験第2問問6で、この文章の正誤が問われている。

・日本では、農産物市場の対外開放にともなって、小規模な農家を保護するために営農の大規模化を抑制する政策がとられるようになった。

この文章は誤り。「農家を保護する」ことは政権担当政党が変わるたびに方針が変わってくるので何とも言えないけれど、少なくとも「営農の大規模化を抑制する政策」はない。より自由に、農業を振興させる方策はとられている。しかし、そうはいっても実際には農家の経営は苦しく、農業だけで食べていけるような世帯はどうしても少なくなるよね。

 

 

<第3問・問3> (図が公開されるまで、しばしお待ちを)

 

おそらくこれは④が誤りなんだろうなとは思う。アメリカ合衆国において「手付かずの自然」って下手したら「砂漠」だからね。少なくとも、広大な農地に利用されているだろうし、「豊かな自然」っていうイメージでないと思う。日本のような温暖多雨の国とは状況が違っているでしょ、やっぱり。アメリカの場合は、市街地の周辺に、きちんと整備された緑地を造成していると考えた方が普通なんじゃないかな。

また図が手に入ったら、しっかりと分析します。

 

 

<第3問・問4>

 

[ファースト・インプレッション] 都市人口率はあまり当てにならないデータ(国によって基準がまちまち)であり、僕は嫌いなんですが、こうやって登場することはある。それより「都市人口に占める最大都市の人口の割合」が重要だわな。先進国は国内に多くの大都市が成立するけれど、発展途上国はプライメートシティ(特定の都市のみが巨大化する)となるわけです。

 

[解法]「都市人口割合」については厳密に考えなくていい。とりあえず、計算式としては「都市人口÷総人口」なわけだけれども、この「都市人口」っていうのが厄介。都市人口の反対語は農村人口で、つまり「総人口=都市人口+農村人口」となるのだが、果たして「都市」と「農村」の境界線ってどこにあるのだろう?行政区分としての「市」と「郡」なのか、人口密度が高いエリアを都市、低いエリアを農村と考えるのか、その基準が国によって全然違っているのが現状なのだ。だから、都市人口率について細かくこだわっても仕方ない。おおまかに、「先進国で高く、発展途上国で低い」程度に考えれば十分なのだ。

このことから、都市人口率が高い①と②を先進国すなわちカナダかドイツと判定し、低い③と④を発展途上国すなわちエチオピアかフィリピンと考える。ドイツを答える問題なので、この時点で③と④をカットし、①と②について判定する。

「都市人口に占める最大都市の人口」とあるが、ちょっと考えてみよう。たとえば、100万人の国があるとして、都市人口が80%で、都市人口に占める最大都市の人口の割合が20%としよう。人口は100万、都市人口が80万なので、最大都市の人口は16万人となる。要するに、80%(0.8)と20%(0.2)を掛け合わせた16%(0.16)という数字が、全人口に占める最大都市の人口となるわけだ。

これを踏まえて考えると、①は「81.3%×20.2%=16.4%」、②は「74.7%×5.8%=4.3%」となる。ドイツの総人口は8000万人、カナダの総人口は3500万人。例えば、①がドイツとすると、最大都市の人口は1300万人に達する。これって、巨大すぎない?人口1000万人規模の都市は絶対に知っておくべきなんだが、EUで人口が1000万に達するのはロンドンとパリ(郊外人口を含む)だけである。東京都の人口が1200万人で、23区の人口が900万人。東京への一極集中が進む日本でも、東京への集中の度合いは10%程度。君たちはドイツの首都って知ってるかい?知っている人は少ないよね。そんなマイナーな都市が、ロンドンやパリを上回り、東京以上にその国によって重要な都市であるわけがない。②をドイツと考えれば、最大都市の人口は300万人程度となり、これならば納得の範囲。これをドイツと判定しましょう。

一方、②がカナダとなるのだが、総人口3500万から算出するに、最大都市の人口は550万人。かなりの巨大都市だけれども、1000万規模までは届いていない。納得の範囲だと思う。

③と④についてはよくわかりません。

 

[アフターアクション] とにかくポイントになるのは「人口1000万人の都市」だよね。欧米においてはこの規模の都市は少ないので、覚えてしまおう。ロンドンとパリ、モスクワ、ニューヨークの4つのみ。ヨーロッパでは主要国の首都もそれなりに人口が多いけれど、イタリアのローマ、スペインのマドリード、そして本問でも登場のドイツのベルリンは、みな300万人レベル。アメリカ合衆国も人口2位のロザンゼルスは400万。カナダは最大のトロントが500万、2番目のモントリオールが400万。オーストラリアは最大のシドニーが450万、2番目のメルボルンが400万。

 

 

<第3問・問5>

 

[ファースト・インプレッション] 姉妹都市ネタは久々。でもテーマとしては珍しいものではないし、確実にゲットしておいて欲しいかな。ちょっとマイナーな都市名が登場しているのは厄介ではあるけどね。

 

[解法] 6つの都市のうちで、君たちが絶対に知っておくべきなのは「ウィニペグ」。カナダ南部の都市で(というか、カナダの都市はほとんど南部にあるんだけどね)、おおよそ西経100度の経線に沿っている。「西経100度」というとピンとくる人もいるんじゃないかな。そう、これは「年降水量500ミリ」の等値線とほぼ一致し、これに沿って肥沃な黒土(プレーリー土)が分布している。この肥沃な土壌を利用して、大規模な小麦栽培が行われ、企業的穀物農業地域となっている。ミネアポリスはよく知らないけれど、ウィニペグで判定し、Pが「穀物の集散地」となる。

他は、雑学のレベルで知っておくしかないけど、どこか名前を聞いたことがある都市はないだろうか。おそらく、君たちの多くは「バルセロナ」は耳にしたことがあるんじゃないかな。1996年に夏季オリンピックが開催されたスペインの都市で、サグラダファミリア教会などで知られる観光の街。強豪サッカーチームがあることでも知られているね。そのサグラダファミリア教会を考えれば、これが「宗教施設」つながりであることが想像されるんじゃないかな。もちろん、極端に宗教的な色彩が強い都市ではないけれど、そうしたキリスト教的な文化はしっかりと根付いているってことだね。Qが「宗教施設」。

あるいは、「ケンブリッジ」という地名にピンと来た人もいるも知れない。ここはイギリスの都市なんだけど、伝統的な大学の名称としても有名。ケンプリッジ大学は、オックスフォード大学と並んで、イギリスを(というか世界を)代表する名門となっているのだ。先ほどの問題で、イギリスの「知的財産」に関するトピックが出題されていたけれど、この国の知的水準は極めて高いといえる。Rが「学術研究」で、正解は⑤。

 

[アフターアクション] 一応、ハイデルベルク(ドイツの学術都市)も教科書に登場はしているんだよな。余裕があれば確認しておいてください。しかし、それより「バルセロナ=サグラダファミリア教会」なんていうのは常識として知っておいてほしいっていうのが、僕の個人的な本音ではあるのです。

それはともかく、ここで最重要であるのはもちろんウィニペグ!カナダの春小麦地帯の中心に位置する都市であり、北アメリカ大陸の中央部ということで典型的な大陸性気候がみられるのです。夏の平均気温は20度近くまで上がるのに、冬の平均気温はマイナス20度という超低温。年間降水量は500ミリと決して多くないが、肥沃な黒土(プレーリー土)に恵まれ、豊かな企業的穀物農業地帯として大規模な小麦栽培が行なわれている。

 

 

<第3問・問6>

 

[ファースト・インプレッション] 第2問問3に続き、また交通ネタ!これにはちょっとビックリ。追試だからなんだろうけれど、本来地理Bでは交通ネタは問われないはずなんだが。

 

[解法] 地理Aではこのパターンの問題も多いんだが、地理Bでは初登場なので、かなり戸惑うかな。

最初にそれぞれの都市がどの国に位置するかを確認。「アムステルダム」はオランダ、「マニラ」はフィリピン、「東京」は日本、「アトランタ」は雨rか合衆国(コカコーラの本社がある。キング牧師の公民権運動で知られる「南部」の都市)。ここまではオッケイかな?

では、問題の分析へ。まず「国内線の旅客数」に注目するのがおいしいよ。例えば、国内に「たった一つ」しか空港がないならば、国内線の旅客数は「ゼロ」になるよね。一つしか空港がなければ、国内を航空機で移動することはできない。たとえばシンガポールのような小国ならば、そういった状況があると思う。

さすがに本問の場合は、そこまでの小国は登場していないけれど、それに類する国はあるんじゃないかな。そう、「オランダ」がそうだね。面積と人口は九州と変わらず、国内の移動ならば航空機より鉄道や自動車が便利かもしれない。「国内線の旅客数」が極めて少ない①をオランダと考える。①は逆に「国際線の旅客数」がたいへん多いのだが、これについてはヨーロッパ全域を対象とした人口移動を考えてみたらいいと思う。ヨーロッパの多くの国が加盟するEUにおいては、国境を超えた人口の移動は自由化されており、外国(とはいえEU圏内だけど)との航空路線はかなり多いはず。

さらにマニラ。あれっ、さっきもマニラ登場してるよね?問4で取り上げられているフィリピンの最大都市って、このマニラのこと。発展途上国においては、特定の大都市にのみ人口や産業、経済が集中する傾向が強く(プライメートシティ)、マニラもそういった都市の一つ。マニラ以外の都市があまり発達していないのだから、国内の航空路もそう多くはないのではないか。②をマニラとする。

残った③と④について。そもそもの人口規模を考えると、オランダが1500万人、フィリピンが1億人、日本が1億2千万人、アメリカ合衆国が3億人。人口が多いからこそ、国内線の旅客数が多いとも言えるわけで、人口順に並べてしまってもいいと思う。①がアムステルダム(オランダ)、②がマニラ(フィリピン)、③が東京(日本)、④がアトランタ(アメリカ合衆国)と代入してみる。なるほど、すでにわかっている範囲で、①と②は正しいわけだ。③と④についても正しい可能性が高い。

実際、アメリカ人の多くは、広い国土を移動するのに航空機を頻繁に利用する。④がアメリカ合衆国の都市とみるのは妥当だろう。

しかし、ここでおもしろいのは、「国際線の旅客数」に注目してみると、東京の方がアトランタより上回っている。これってどういうこと?

世界都市である東京は、世界各地と直接つながる航空路を多数持っている。羽田も成田も大規模な国際空港であるし、近隣のアジアどころかヨーロッパや北アメリカに向かう便も多い。

それに対し、アトランタはどうだろう?これがニューヨークのような世界都市ならば、ヨーロッパ向けの便が頻繁に空港から発着しているのだろうが、アトランタは南部の一都市(いちとし)に過ぎない。ここの空港から外国に向かう便など限られているのではないだろうか。そもそもアメリカの人々は国内で用事が足りてしまうので、海外にさほどの魅力は感じていないのではないか。国際線に乗って、どこに行こうというのだろうか。

以上より、何の矛盾もなく納得できるので(これって大事!とりあえず当てはめてみてから、あれこれ辻褄の合わないところを探すっていうアプローチ)、③が東京、④がアトランタとなる。

 

[アフターアクション] 解法で長々と言いたいことは全部書いちゃったな。とりあえず、どの都市がどこの国かは知らないといけないし、その国の人口規模も知っておくべきだけれども、この低いハードルを超えた後は、ひたすら考えるのみ。面積、人口、1人当たりGNIなど考えることはいくらでもあるし、オランダがEUであること、発展途上国のフィリピンはプライメートシティが形成されるということ、アトランタがアメリカ合衆国の田舎の都市であること(それでもコカコーラとかあるんだけどね)は必ず意識しないといけないし、そして我々の生活体験として羽田や成田の重要性を理解しておくことも必要。交通っていうネタはちょっとフェイントだったけれど、中身は地理Bらしい「思考問題」として完成度が高い。良問です。

なお、どうでもいいけど、この追試って「バルセロナ」、「アトランタ」、「シドニー」が登場してるんだけど、これらの共通点ってもちろん「夏季オリンピック」だよね。オリンピックが開催された都市ぐらい知っとけよっていうメッセージなのかな。