2015年度地理B追試験[第5問]解説

第5問 総合的な大問。寄せ集めといった印象もあるけれど、環境問題や民族問題に寄った話題が多いのが特徴。問1はスマートな統計問題なので個人的には好きです。問2は難しかった〜、一瞬間違えたからね。問4と問5は素晴らしい問題。とくに問4は内容も危ない。強いメッセージ性を感じる問題たちなのです。

問1 アフリカの階級区分図。アラブ(北アフリカ)とブラックアフリカ(サハラ以南のアフリカ)の違い、所得水準の高い国としての南アフリカ共和国、OPEC産油国などが注目ポイント。
まず指標からチェック。合計特殊出生率はおおよそ人口増加率に比例する。人口増加率は1人当たりGNIに反比例する傾向があるので、つまり「合計特殊出生率は1人当たりGNIに反比例」。また、15〜24歳の識字率は教育水準のことで、女性の社会進出率と比例すると考えよう。学校に多くの人が通うのだから、男性だけでなく女性も勉強の機会を得ることになる。このことが女性の社会進出を促し、さらに女性が多くの収入を得ることで全体の所得水準も上昇し、結果として1人当たりGNIが上がる。つまり「15〜24歳の識字率は1人当たりGNIに比例する」のだ。
アフリカで1人当たりGNIが高いのは、資源国でもありアフリカ最大の工業国でもある南アフリカ共和国、そしてアルジェリアやリビアのような産油国(ナイジェリアは人口規模が大きいので、1人当たりGNIは決して高くない)。これら3つの国が低い値となっているウが「合計特殊出生率」、同じく高くなっているアが「15〜24歳の識字率」。残ったイが「成人のHIV感染率」つまりエイズのことだが、これについては考慮しなくていいと思う。南部アフリカで感染率が高いが、アルジェリアで低く、南アフリカ共和国で高いなど、経済レベル(1人当たりGNI)とは関係ない。

問2 水を使う農産物といえば真っ先に米が想像できないかな。だから「国内で消費される農産物の生産に使用された国内の水資源量」が大きい①と②が米作国の日本とインドになる。また、日本は食料自給率が低く、多くの農産物について海外からの輸入に依存している。「輸入される農産物の生産に使用された他国の水資源量」だが、日本の場合、1人当たりの「輸入される農産物」がそもそも大きいのだから、それに使用された他国の水資源量も大きくなるはず。①が正解。
と思ったんだが、そうなると④の「970」っていう数字が気になる。もしかして④が日本なのか?日本はそもそも農業がさかんではないので、1人当たりの農業のための水の使用量が少ないんじゃないか。うわっ、そっちが真実だわ!これ、正解は④でしょ?もしかしたら違う?いや、全然わからんぞ。間違っていたらゴメン。

とうわけで調べてみました。あっ、正解は④だった!危なかったぁ。そうか、日本の場合、1人当たりの農産物の生産量がそもそも少ないから、それに使用される水の量も少なくなるわけか。それに対し、1人当たりの輸入量は多いから、そちらの水は多くなる。うん、そういうことだな、納得。米作とか全然関係なかったですね(苦笑)。

問3 環境問題に関する話題ですが、比較的イージーかな。一つ目の誤りは②。常緑広葉樹林は熱帯林が中心で、温帯林でも中国南部や地中海沿岸など温暖な地域。さすがに冷涼なスウェーデンではありえないでしょ。第1問でも植生が大きく取り上げられていたが、ネタ的にはかぶってますね。
もう一つは③。精密機械工業は熟練労働者の技術が必要となるので、先進国においてこそ立地するもの。さすがに西アフリカの経済レベルの低い地域では成り立たないでしょ。
他の選択肢もわかりやすいものばかりと思います。とりあえず読んでおいてくださいね。

問4 2015年地理B追試験の中で最も印象的な問題といえるでしょう。このインパクト!ここまで真正面から軍事費に切り込んだ問題があっただろうか?しかもイスラエルも登場しちゃっていてかなりヤバ目。熱い問題だわ!
問題文参照。ここにはっきりとヒント(というか答えそのものと言っていい)が書かれているのだ。武器については「高度な生産技術をもつ先進国による供給」と説明されている。なるほど、先進国が武器をつくり、発展途上国に売っているわけだ。まさに「死の商人」というわけですね。世界の紛争地域のほとんどは発展途上国であり、そこで多くの命が失われているのだが、利益をむさぼるののは常に先進国の資本家なのだ。表2においてもアメリカ合衆国の数値をみればよくわかる。アメリカは世界最大の武器輸出国なのだ(全ての国のデータがあるわけではないからわからないけれど、おそらく1位と思って間違いないでしょう)。
そうなると、発展途上国であるインドの判定は容易になってしまう。1人当たりGNIはドイツで40000、イスラエルで20000、ロシアで10000、インドで3000程度。最も経済レベルの低いインドは、先進国で開発・製造された武器を買い求めるお得意様というわけだ。④が正解。
なお、他の国の判定には「GDPに占める軍事費の割合」が目安となる。具体的な軍事費がわからないのでGDPは計算できないが、例えば③と④を比較した場合、③は④より武器の輸入額が小さいのだから、軍事費そのものも小さいとは思う。しかし、それでもGDPに占める軍事費の割合は高いのだから、GDPを考えた場合、③<④ となるはず。イスラエルは1人当たりGNIは高いものの、小国であり人口規模は小さく、GNI(GDPと同じと考えていい)も小さい。一方、インドは1人当たりGNIは低いが、人口規模が圧倒的に大きく、GNIは比較的大きな値となる。③が小国のイスラエルと考えると納得がいく。
参考までに、①がロシア、②がドイツ。
なお、イスラエルは「警察国家」の異名をとり、国民に占める警察官や軍人の割合が極めて高い。女性に対しても徴兵制が施行されている。周辺をアラブ国家に囲まれ、独立以来数十年間常に戦争の危機にある。政治的にはアメリカ合衆国とのつながりが強く、多くの武器を輸入しているほか、イスラエル自体も武器の開発には積極的である。

問5 この問題もすごくいいのだ。地理学習者はどうしても紛争や戦争の原因を「民族や宗教の対立」に求めてしまうが、決してそれは真実ではない。もちろん民族や宗教の違いは重要な要素であるし、テストではそれがこぞって出題されている。しかし、もう一つ上の段階として、「民族や宗教の違いだけで人は殺しあうほど対立するものなのか」っていう疑問までたどり着いてほしい。世界の戦争や紛争は、金や資源の奪い合い、権力者の自己中心的な思考といったような、もっと「しょうもない」理由によって生じていることの方が多いんじゃないか。民族や宗教の違いなどあくまで大義名分で、一部の人間の強力なエゴによって多数の人間が巻き込まれ、命の危険にさらされているのではないか。
そういった「民族や宗教の違い」に起因しない内戦の例としてソマリアがある。ここは民族構成はアラブ系で一様であるし、宗教もイスラム教が主。民族も宗教も対立要因はない。しかしそれでも国内に多くの勢力が乱立し、無政府状態へと突入した。国土は戦乱にさらされ、国民の命は次々と奪われる。国連軍の平和維持軍(PKO)が派遣されるが、アメリカ合衆国の軍用ヘリコプターがソマリア民兵によって撃墜されるなど(「ブラックホーク・ダウン」という映画に詳しい)、状態は混迷を極めた。正解(誤り)は③で、「NATOによる空爆」が行われた内戦地域は旧ユーゴスラビアのセルビア。北アメリカとヨーロッパを中心とした軍事組織のNATOがアフリカのソマリアの内戦に介入することはない。とはいえ、前述のようにソマリアに国連軍は送られたものの、それで内戦が終結したわけではない。「アフリカの角(つの)」と呼ばれるソマリアだが、この地の紛争を深く知ることによって、我々は民族や宗教が決して争いの原因になるものではないことを知る。