2015年度地理B追試験[第2問]解説

2015年度地理B追試験[第2問]解説

資源と産業に関する大問。単なる産業ではなく、「資源」と断っているところが意味深い。エネルギーをめぐる状況は非常に注目度が高いものであり、センター地理でもそういった部分を強調しているのだろうか。

問1 ずいぶんベタな資源統計。スズって、はるか昔の共通一次時代に出題歴はあるけれど、センターになってからは初めてじゃないかな。それぞれの資源について生産順位を正確に把握することが重要。統計は精緻にとらえる!
まず、銅鉱について。世界的な生産国はチリであり、わが国もチリから多くの銅鉱・銅を輸入している。銅は電線にも利用される重要な金属。南アメリカの割合が高いAが銅鉱となる。
さらにボーキサイト。世界最大の産出国はオーストラリア。また、ボーキサイトは酸化アルミニウム(アルミナ)と水の分子が結合した物質であり、熱帯の土壌であるラトソルに含まれている。多雨である熱帯では、地表面に酸化した金属が集積しており、その一つが酸化アルミニウムなのだアジア、オセアニア、南アメリカ、オセアニアといった熱帯気候を含んだ地域での産出が多いことがCのグラフからもわかる(ただし、Bのグラフもそういった低緯度地域が高い割合を占めているので、このことはグラフ判定の決定的な要因とはならないのだが)。オーストラリア以外の主なボーキサイト産出国はブラジル、ジャマイカ(カリブ海)、ギニア(西アフリカ)など。
残ったBがスズ鉱。中国が世界最大の産出国。南米のボリビアでも比較的産出量が多い。缶詰のメッキなどに利用される。スズと亜鉛の合金はハンダ。
統計については、特徴的な国を覚えることも大切だが(スズ鉱のボリビアやボーキサイトのジャマイカ)、やはり1位の国はマストで知っておくべきだろう。

問2 変わった問題。レアメタルは一般にハイテク産業に利用されることが多く、先進国においてその重要性がとくに高い。ただし、発展途上地域にも埋蔵量が多く、その確保には政治的な状況もつきまとう。そのため、先進国の中には携帯電話やコンピュータを廃棄する際に内部からレアメタルを取り出して、再利用することも積極的に行われている。選択肢③の「発展途上国」を「先進国」に入れ替える。
何となくフィーリングで解く問題なのだが、かえって難しかったかな。「発展途上国」の反対語として「先進国」を思い浮かべることができるかどうかっていう問題なんだが、こういうのを苦手にしている人って結構いるよね。慣れが大切なのかなぁ。

問3 おもしろい問題。まずはカとキから判定しよう。日本地理の知識は絶対的に必要になる。やっぱり中学校の勉強はしておかないと。それにしても、本来なら鉄鋼業のような臨海型の工業を取り上げたらならば、もう一つはそれとは対照的にセメント工業のような内陸型の工業にするべきなんだが、本問では造船業という、こちらも臨海型の工業が取り上げられている。特定の県に対する知識で解いていかないといけないわけだ。
で、その特定の県というのが「長崎県」である。かつては日本の、いや世界の造船業の中心として多くの船舶を建造していた。しかし、現在は造船業も斜陽化し、日本そして長崎の地位も低下しており、とくに長崎市は県庁所在都市でありながら、人口が大きく減少してしまっているという産業の空洞化に悩まされている。とはいえ、今でもやはり造船業は根強く残っているのであり、長崎県が2位に入っているキが「造船竣工量」となる。よってもう片方のカが「粗鋼生産量」。自動車工業のさかんな愛知県で、粗鋼(鉄鋼)も多く生産されているのは納得である。

EとFの判定。これこそ、ベタな統計知識だけの問題。船舶竣工量は(かつては日本が1位だったが)、1位中国、2位韓国、3位日本。よってFが造船竣工量。
粗鋼生産量は、1位の中国が圧倒的。これ以外の鉄鋼国としては日本、アメリカ合衆国、インド、ロシア、韓国、ドイツなどがある。Eが粗鋼生産量。

問4 ヤバいよ。こういう問題に騙されたらあかんよ。全体をなんとなく見るんじゃなくて、ターゲットを絞って、厳密に数字を追いかける。ポイントは「現在」の数値。本問ならば2010年。この年次に絞って、データを解析する。それでもわからない時だけ、過去のデータも参照。
さらに統計徹底主義を厳密に。この図では2つのデータが示されているのだが、縦軸が「生産台数に対する輸出台数の比率」であり、横軸が「生産台数の世界に占める割合」。いずれも割合のように思えるかも知れないが、実はそうじゃないのがわかるかな。縦軸は「輸出台数÷生産台数」、横軸は「生産台数÷世界の生産台数」。縦軸のデータは、例えば「日本の輸出台数÷日本の生産台数」や「アメリカ合衆国の輸出台数÷アメリカ合衆国の生産台数」であり、分子と分母がいずれも変数となる。それに対し横軸のデータは「日本の生産台数÷世界の生産台数」や「アメリカ合衆国の生産台数÷世界の生産台数」であり、分母は共通している。つまり、分子であるそれぞれの国の生産台数を直接比較できるというわけ。具体的にみてみようか。2010年の値は、④が23%、②が12%、③が10%、④が6%。これはいずれも世界全体の生産台数に対する割合なので、例えば世界全体で100万台の生産があるとすれば、④は23万台、②は12万台、③は10万台、①は6万台。④>②>③>①の順となる。現在世界最大の自動車生産国は中国なので、④が中国となり、この選択肢がまず消える。
さらに①〜③について考える。ここからは過去のデータを参照しよう。我々が考えないといけないのはオイルショックの影響である。1960年代の高度経済成長によって日本は重工業化を果たし、鉄鋼や石油製品の生産量も急激に上昇した。しかし1970年代に生じたオイルショックによってそうした重化学工業は大打撃を受け、(衰退とは言わないまでも)鉄鋼や石油製品の生産は停滞し、日本の経済成長もストップした。しかし、自動車工業についてはどうだろう。世界的な原油価格の高騰によって逆に燃費の良い日本車(とくに小型の乗用車)の評価が上がり、70年代も警属して生産台数が増加していった。1970年代の末(つまり1980年)にはアメリカ合衆国を凌ぎ、日本は世界最大の自動車生産国の地位へと上り詰めた。もちろん、1980年代には貿易摩擦や円高の問題も生じるわけだが、それはまた別の話。1980年における生産台数に注目してみよう。
図を参照すると、②は1980年には世界の30%近い台数を生産し、首位であった。次点の③は20%程度。このことから、②を日本、③をアメリカ合衆国と判定する。
残った④がドイツ。生産台数に対する輸出台数の割合が高いが、EUの自由貿易圏に含まれ、国境を越えた移送が容易に行えることがその理由。

問5 何だよ、めちゃおもしろい問題じゃないか(笑)。愛知県で結婚式が派手っていうやつかい?
まず注目なのが、「売上高で上位5位までの都道府県」というところ。「割合」じゃなくて「実数」なわけだ。つまり人口が多い都道府県は企業(店舗)の数も多いだろうし、どんな業種についても売上高が多いのは当たり前ということ。なるほど、東京都や大阪府、愛知県など巨大都市を抱える都府県の順位が高いのはそういうこと。埼玉県や神奈川県、兵庫県や福岡県もやはり県内に100万都市が位置し、人口が多い。そうなると一つだけ奇妙な県が混ざっているのだ。それが、長崎県!なぜ、長崎県のような弱小県(失礼・涙)が、こんな錚々たるメンバーの中に一人ぽつんと取り残されているのだろう。
これ、さっきの問3が実は大きなヒントになってるんじゃないかって思うわけだ。本来センター地理の問題は一つ一つが孤立していて関係性は薄い。というか、一つのネタ(長崎県の工業)で2問が正解できちゃうっていうのは本来的にはちょっとマズいと思う。とはいえ、実際にこうした形で問題が問われているわけだから、長崎県の人はサービス問題としてその幸運を享受してしまえばいい。
そう、ここのポイントって「造船」なんだよね。長崎県は日本を代表する造船地域。「機械設計」にはもちろん船舶の設計も含まれるよね。それを考えるならば、シを「機械設計」と判定することは当然だと思う。なるほど、愛知県はトヨタ本社の位、神奈川県は日産本社の位置する自動車企業県だ。自動車という機械の設計の中心地であることは納得。
サとス。ここからはメンツだけみても仕方ない。人口の多い都府県が並んでいる。だからこそ「数字」に注目するのだ。サは全体的に低い値。日本全体の人口バランスを考えたら(東京の人口は1200万人で日本人口の10分の1)、人口規模にそのまま比例しているとみてもいい。それに対し、スはまさに東京に一極集中。60%が東京都に集まっているのだ。日本最大の都市であり、世界でもとくに人口の多い都市の一つである東京は、世界中の情報が集積する世界都市といえる。知識型の産業が発展し、この都市から発信されるソフトウェアは際立って多くなっているのではないだろうか。日本中の叡智が集まり、それがコンピュータソフトとして東京という巨大都市で結実する。こういったイメージができれば、スの判定は簡単。これが「ソフトウエア業務」である。
残ったサが「冠婚葬祭業務」。そもそも冠婚葬祭はどの家庭もするものだから、人口が多いところではそれに費やされる金額も大きいだろうし、人口が少ない地域ではそれなりにしかならない。なるほど、ほぼ人口順であるだけでなく、人口規模にもほぼ比例(前述のように東京は日本全体の人口の約10%)している点は当たり前。1人当たりの冠婚葬祭の支出は日本どこでも似たようなものだろう。正解は①となる。
で、さらにここから、最初のコメントに戻ります。愛知の人って見栄っ張りなんで、結婚式が派手なんだって?お嫁入りの家財を運ぶのにも勢を凝らす。愛知県って人口規模では国内4位なわけです(1位東京都、2位神奈川県、3位大阪府)。それが冠婚葬祭においては2位にランクアップする。つまり1人当たりの支出が多いということ。なるほど、こういうところに愛知の人の県民性が現れているわけか。統計というのは正直なものですね(笑)。

問6 フィンランドは第4問でも大きくフューチャーされている。今回の最重要国家!
まず「人口1人当たり国内研究費」に注目。こうした「1人当たり」の金額については、1人当たりGNIに基づいて考えてしまうのが最も手っ取り早い。物価が高い国で支出が多いのは当たり前。研究のために本を一冊買うことを考えても、先進国における本の値段と発展途上国とのそれは違うに決まってる。その点で考えるとフィンランドは1人あたりGNIが極めて高い国(人口が少ないので、そもそも「1人当たり」の値が相対的に大きくなりやすい)。日本が約4万ドルであるのに対し、フィンランドは5万を超える。この時点で、答えを①としてしまっていいと思う。①に次ぐ高い値は②だが、これでは①や日本の半分程度であり、さすがに低すぎると思う。そもそも「国内研究費の財源別割合」について①と②の値はさほど違いがなく(③や④と比べると全然違うのだが)、こちらの指標で判定するのは不可能に思う。結局「1人当たり国内研究費」で比べないといけないわけで、そうなると「1人当たりGNIは、フィンランド>イギリス」ということが絶対的な真理として存在するわけでl、それを覆してまで①がイギリス、③がフィンランドとは到底思えないのだ。