合氣道真生会川崎高津道場 活動報告

2021.03.25

合気道はなぜ体(たい)をさばくのか ~合気道と武器術の関わり

合氣道の理法の大きな特徴の一つに「体(たい)さばき」というものがあります。

これは、相手の攻撃をよけたり技を無理なく行えるポジションを取るために片方の足を軸にして90°から180°、時にはさらに大きく円軌道上に体を移動させることで、「体の転換」とも言い、その理法を総称して「円転の理」と称している会派もあります。

〈 体さばきの稽古 : 川崎高津道場 〉

このように円状に体をさばいて技を行う武道・古武術は合氣道以外にはあまり見られません。合氣道のルーツとなっている古武術の流派でも、こと体術(柔術、和術など)においては大きく体をさばく技法はほとんど見られず、多くの場合はその場をほとんど動かずに相手の攻撃を受け止めるか未然に懐に入り込んで技を行います。即ち、古流体術と合氣道の理法上の大きな違いの一つがこの「体さばき」にあると言えます。なお古武術に体さばきが少ない理由は、合戦上では足場が悪く、敵味方が密集して体をさばばく余裕がなかったこと、その後の江戸時代では狭い室内で技が継承されたことなどが挙げられます。例えば明治初期の頃、嘉納治五郎先生(柔道創始者)は、「家具なども置いてある四畳半の部屋ではじめに柔術を教わった」と伝えられています。

ではなぜ合氣道では「体さばき」を行うようになったのでしょうか。その理由はやはり開祖(合氣道創始者・植芝盛平翁先生)の武道理念に要因が求められます。開祖は心身両面の修業を積み重ねる中で「武の根源は、万有愛護の精神である」という理念に到達されました。また、合氣道真生会で毎回奉読している「合氣道の精神」の中には「武技は、天の理法を体に移し」という言葉があります。

つまり開祖は、若き日に身につけた「力を以て敵をねじ伏せ武術「愛の精神に基づき、自然の理に即した武道」として生まれ変わらせることに後半生を捧げたのです。その研究の中で具体的に生まれた理法の一つが「体さばき」なのです。合氣道では、危険を避けながらより腕力に頼らず、無理なく、自然な流れの中で技が行えるために、この「体さばき」を最大限に活用できるよう稽古します。

〈 体さばきを活用することで技は無理なくスムーズになります 〉

開祖はこの「体さばき」は何を基に生みだされたのでしょうか。もちろん、研究を進める中でふと思いついた・・・という可能性もありますが、そこに「剣の理」が大きな役割を果たしたと考えられます。

素手の攻撃であれば、もし当たっても急所にクリーンヒットしない限りおそらく死ぬことはありません。実際に、柔道や顔面パンチ・金的なしのフルコンタクト空手の試合では、対戦者がほぼ正面を向いたまま接近して戦うのが普通の光景です。

ですが、例えば相手が刀を持っていいたらそうはいきません。刀の攻撃は受け止めるかよけなければ斬られ(刺され)ます。古流剣術の中にはあまり動かずその場で攻撃を受け止めて打ち返す流派もありますが、例えば開祖が熱心に研究された鹿島新当流剣術では相手の剣を受け流しながら体を左右に入れ替えて打ち返すような形がよく見られます。開祖は若き日より剣術、槍術も熱心に修業されました。その研鑽が体術と結びつくことで合氣道の体さばきが生まれたのではないかと考えられるのです。

〈 剣の稽古 : 川崎高津道場 〉


開祖は、「合氣道は剣の理より生まれたものだ」という言葉も遺されています。また昭和前期の剣道家である芳賀準一氏は、開祖の技を見て「あれは剣の動きだ、徒手の技も剣を持てば剣の技になるようにできている」と語っています。これらの言葉が、合氣道の体さばきが剣術の理法から生まれたものだと考えられる一つの証になるかと思います。

合氣道の技法の中には剣やその他の武器との関連性をわかっていなければ理解できないものが多くあります。川崎高津道場の稽古でも、特に他の武道・格闘技の経験者が足を止めたまま技を行ってしまうことがよくあります。そこにはきっと、無意識にせよ力の弱い人や女性の突きや打ち込みなど当たってもダメージがないから大丈夫という油断があると思います。

そういう方には短刀や剣を持って寸止めで打ち込み、「ほら正面に立っていると死にますよ」と体さばきの意味を実感してもらうようにしています。合氣道の突き、打ち込みは、相手は剣や短刀を持っているとイメージすることが絶対条件です。取り技ならば、あいている手、もしくは懐に短剣を忍ばせていることを想定するべきです。合氣道は、その基本前提がわかっていなければ見えてこないものが多々あります。

〈 短剣を用いた稽古:川崎高津道場 〉

他会派の合氣道指導者の中には、研究不足であったり、自身に武器技の練習経験が少ないことを隠すために「合氣道は、徒手武道だ」と言い切ってしまう方が少なくありません。しかし、そうした武器の存在を無視した徒手対徒手のみの状況しか想定していない指導者の技は、ただ関節技、投げ技を強く、あるいは派手に行うことに気を取られるあまり、平気で相手の正面に立って技を行っている姿がよく見られます。相手がナイフでも持っていればすぐに殺されてしまうでしょう。これが武道でしょうか?

合氣道は武器術(剣杖など)と体術が一体となった総合武道です。それらは互いに深く関わり合い本来は切り離すことができないものです。

いま、合氣道真生会では先師が開祖より伝授された剣、杖の技を大切に継承し、日々稽古しています。真の合氣道を探求していく上では、例え稽古の中心が徒手技であったとしても武器術との関連性を決して忘れてしまってはなりません

〈 杖(じょう)の稽古 : 川崎高津道場 〉

〈 杖の形 : 川崎高津道場 〉

〈 合氣道真生会の稽古で用いる武器 〉

合氣道真生会川崎高津道場 吉見新

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